
津波に流されたJX仙台製油所の「タキ1000」(日本石油輸送提供)【拡大】
最終的に、松田さんはEH200型、EF64型という山岳区間に強い直流電気機関車の投入を決めた。途中駅で機関車を切り替えるのは手間がかかるが、被災地に確実に届けるには機関車のリレーが最適と判断した。
次にタンク貨車の確保。石油輸送で最も使用されているのが「タキ1000」と呼ばれるタイプで、1基でタンクローリー2、3台分相当の45トンを積める。所在を調べるとJXの仙台製油所に46両あったが、津波を受け無残に横転していた。
「コスモ石油の千葉製油所、77両全部無事だそうです」
落胆したところにうれしい報告が舞い込む。同製油所は、LPGタンクが爆発炎上し、いまだ消火作業の最中。タンク貨車があった場所は、爆発したプラント群から200メートルの距離だったが奇跡的に被害を免れた。
◆想定外の問題で暗雲
計画が順調に進むかと思われたそのとき、想定外の問題が生じた。「輸送ルートの一部で、タキ1000の走行実績がありません。入線確認が必要です」。部下からの報告を受けて、松田さんは天を仰いだ。
「入線確認を取ろう。JR東に提出するタキ1000の資料を整備してくれ。それと…」。続けて松田さんは部下に「タキ38000を集めてくれ」と指示した。
「あの黒いやつですか?」。部下は指示がよくのみ込めない様子だった。タキ38000は国鉄時代に導入されたタンク貨車で、積載量も36トンと少なく、ほとんどが退役済み。古い貨車だけに入線確認なしで投入できるが、走行可能な状態でいったい何両残っているのか。もし集まらなかったら、被災地向けの石油列車はどうなるのか。計画には暗雲が垂れ込めていた。