WDにも事情はある。業績が順調な半導体事業で協業する東芝メモリが他社に渡れば、協業の枠組みが崩れかねないとの危機感は強い。だが、訴訟で交渉が延び、後がなくなった東芝から有利な条件を勝ち取ろうする姿勢は「それでも提携相手か」と東芝の反発を招いた。
こうした中、日米韓連合を主導するベインは、ネックであるWDとの係争が続いていても買収を完了できる起死回生の案で東芝を自陣営に傾かせた。
アップルなどが買収時に資金を肩代わりし、係争解決後に産業革新機構などへ譲渡する枠組みだ。競合するSKは融資の形で資金拠出するが、「議決権を集めないストーリーがはっきりしている」と東芝関係者は独占禁止法の審査が長引く懸念が少ないと評価する。
ただ、日米韓連合に売却が決まった場合、WDは徹底抗戦する見込み。売却差し止めの法廷判断が下れば、売却自体が暗礁に乗り上げる。
どの陣営に売却するにしても、東芝とWDとの対立解消が不可欠だが、売却条件をめぐり交渉が長引いていることで、むしろ対立が深まった感も否めない。半導体工場での協調関係の維持も含め、今後に懸念を残している。(万福博之、井田通人)