マレーシアも日本と同様、国策として積極的な外国人観光客の誘致(インバウンド)に取り組んでおり、2016年の外国人観光客は2675万人とアジアでは3番目に多い。しかし、日本のように、そのアイテムの一つとしてのカジノを含めたIR誘致推進の声は聞かれない。豊かな自然や地形を体験できるもの、多民族文化に触れ合えるものなど、その誘致手法はさまざまであり、極端な話、一部の巨大施設に外国人を封じ込めるようなものは志向していない。つまりカジノ立国のマカオや時間潰しの空港カジノではなく、訪問してくれた外国人に、自国の魅力を余すところなく体感してもらうことを観光としている。そもそも観光とはどういうものなのか。その観点に立つと、マレーシアは観光客誘致の原点を理解し自国の魅力をよく認識していると感じる。日本の観光政策も「開発」以前に、“観光の原点”を忘れてはならないだろう。
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【プロフィル】木村和史
きむら・かずし 1970年生まれ。同志社大学経済学部卒。大手シンクタンク勤務時代に遊技業界の調査やコンサルティング、書籍編集に携わる。現在は独立し、雑誌「シークエンス」の取締役を務める傍ら、アジア情勢のリポート執筆なども手掛ける。