利益が生み出される領域は大きくシフト
先ほど乗用車の新車販売台数が2025年頃に横ばいに転じると予想したが、自動車市場全体は今後も成長していく見通しだ。ただし、成長が見込まれるのは主に、今はまだ存在していない、または市場が極めて小さい分野である。
2017年の自動車業界を眺めると、既存ビジネスが利益の大半を占めていた。具体的には「従来の部品」「新車販売」「ファイナンス」「アフターサービス」などが利益の大半を占め、その合計額は2260億ドル(約23.9兆円)に上っていた。
この構造が、2035年になるとガラリと変わる(図表2)。旧来の新車販売がもたらす利益は減少し、代わりに電気自動車の販売やその部品、コネクテッドカーなどのデータ関連サービス、カーシェアやライドシェアなどのシェアリングサービスがもたらす利益が増大する。自動車業界全体の利益は3800億ドル(約40.3兆円)に膨らむ見込みだが、既存プレイヤーにとっては、そのプロフィットプール(利益がうみだされる領域)が新分野に大きくシフトしていくため、頭が痛い。
プロフィットプールが拡大していく新領域では、新規参入も相次ぎ、競争はますます激しくなっていくだろう。バトルゾーンには、日本でもすでにソフトバンクやNTTドコモなど、通信分野で実績のあるプレイヤーが参入してきている。加えて、アメリカやドイツの自動車会社も恐れつつ警戒しているのが、巨大市場を背後に控えた中国自動車産業の動きだ。
日本の自動車会社にとって、優位性を獲得している既存のプロフィットプールが減少していく一方で、今後はさらに「自動運転技術」「バッテリー生産設備」「充電インフラ」「自動運転タクシー車両」など成長分野への積極的な投資が求められるようになっていく。これら成長分野に対する投資は2030年までに自動車産業全体で9000億ドル(約95.5兆円)以上必要と試算しており、2035年までにはそれが2.4兆ドル(約254兆円)以上に膨らむ見通しだ。一方で、自動車会社の利益は今後減少すると考えられる。2017年の自動車会社の売上高利益(EBIT)率は、2017年の6.6%から、2025年には約1%ポイント減の5.5%になると予測される。自動車会社にとっては、利益が減少する一方で巨額の投資をせまられるという「ダブルパンチ」となる。