米通商代表部(USTR)は10日、日本との新たな貿易交渉に関する公聴会を開き、自動車業界や農畜産業などから44団体の関係者が証言に立った。自動車業界から、不当な通貨安誘導を禁じる「為替条項」や日本車輸入の数量規制の導入を求める声が出たほか、牛肉などの畜産業団体が日本市場の開放を急ぐよう迫るなど、厳しい要求が相次いだ。
USTRは、来年1月にも開始する対日交渉の方針に民間の意見を反映させるため、公聴会を開催した。
自動車業界の団体が公聴会の最初に意見陳述し、全米自動車労組(UAW)が「日本との合意には強力で強制力のある通貨統制(のルール)が不可欠だ」と主張し、為替条項の導入を求める考えを示した。
米ゼネラル・モーターズ(GM)など米系3社の「ビッグスリー」で作る米自動車政策評議会(AAPC)も、米国が北米2カ国と結んだ新貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に入った通貨条項が「画期的」と評価。対日協議の合意にも為替操作を禁じるルールが盛り込まれるべきだとした。
AAPCは、日本が独自の安全基準など多くの非関税障壁がある「先進国でもっとも閉鎖的な市場だ」と批判。UAWは日本車の輸入台数に上限を設ける輸入割当(クオータ)の導入も提案した。
米国が日本市場への参入拡大を求める農畜産分野では、業界から「日本と(早期の)交渉取りまとめに失敗すれば大きな損失が生じる」(全米豚肉生産者協議会)などと、交渉妥結を急ぐよう求める声が出た。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効により、オーストラリアなどの協定参加国は対日輸出の関税が引き下げられ、米国の事業者が不利になる。米食肉輸出連合会(USMEF)は「『肉ブーム』の日本で外食産業が急成長している。いったん商機を逃せば(市場シェアを)取り戻すのは困難」と危機感を示した。
この日の公聴会には、医薬品開発やデジタル産業の業界団体も意見を陳述。日本の医療市場の閉鎖性を指摘する見方や、デジタルデータに関するルールの策定、知的財産権保護の改善に向けた取り決めを日米協議で扱うべきだとの議論も出た。日本との新協議に幅広い業界が関心を寄せており、USTRには約160件の意見書が寄せられた。(ワシントン 塩原永久)