経営

パナと三井化学、ベンチャー主導で新事業に挑戦

 ■「オープンイノベーション」加速

 デジタル化の急速な波が押し寄せる中、大企業の経営資源とベンチャーのアイデアを組み合わせて事業を生み出す「オープンイノベーション」が加速している。パナソニックは米ベンチャーキャピタル(VC)と、三井化学はバイオベンチャーと新会社を立ち上げた。両社はいずれもベンチャー側が主導権を握っているのが特徴だが、どんな化学反応が起きるのか注目される。

 ◆企業風土改革を狙う

 パナソニックの家電事業の社内カンパニーのアプライアンス社と米シリコンバレーを拠点とするスクラムベンチャーズは、今年3月「BeeEdge」(ビーエッジ、東京都港区)を設立した。パナソニックで事業化できなかったアイデアを改めて審査し、外部の発想を取り入れて実現しようという狙いだ。

 ビーエッジ社長にはIT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)会長も務めた春田真氏が就任。第1弾として、ミツバチプロダクツ(東京都港区)を設立し、パナソニックが保有するスチーム技術に着想を得た、チョコレートドリンクマシンを来年春、カフェなどに売り込む考えだ。

 この事業はミツバチプロダクツの社長に就任した浦はつみ氏が、パナソニック社内で提案したが、市場規模が小さいとの理由でお蔵入りした経緯がある。だが、「健康志向もあり、飲むチョコレートで豊かな食文化を演出したい」との浦氏の熱意が春田氏の目に留まった。

 カフェに置くには、デザインは最優先。浦社長が米大手IT企業でプロダクトデザインエンジニアの経験を持つダグラス・ウェバー氏らを口説き落とし、2カ月半という短期間で試作機の作成にこぎ着けた。大企業のパナソニックではデザイナーとの契約手続きだけでも時間がかかり、社内のこの種のケースでは1年程度かかるのが一般的だったという。

 浦氏をはじめ新会社の社長になる人は、パナソニックを休職し給料も自分で決める仕組み。退路を断ち、移籍する手もあるが、「休職」ならば、家族の同意も得やすいと、春田氏がパナソニックに掛け合い、挑戦しやすい環境をつくった。チャレンジを経験した人材がパナソニックに帰り、新たなチャレンジを行うことで、企業風土の改革につなげたい狙いもある。

 春田氏は「日本は技術や研究をバックにした優秀な人材やアイデアが大企業の中に閉じ込められたままになっている」との長年の思いを、シリコンバレーで面接したアプライアンス社の本間哲朗社長にぶつけ、意気投合し、その後、スクラムが51%、パナソニックは49%を出資して合弁会社を設立するに至った。

 ◆スピード経営にかじ

 11月には官民ファンド、産業革新投資機構傘下のINCJ(東京都千代田区)がビーエッジへの出資を決めた。

 日本では起業を含めた開業率は5.6%にとどまり、10%を超える欧米に比べて低い。それだけに大企業の意識改革を促す、今回の取り組みは「現実的」と期待する向きもある。

 三井化学も10月、バイオベンチャーの「ちとせバイオエボリューション」(シンガポール)と共同で事業化と人材育成に取り組むオーブンイノベーションに乗り出したと発表した。

 三井化学が持つ植物細胞培養技術を事業化する「植物ルネサンス」と、ちとせグループの微生物の働きを農作物栽培に応用し、野菜の味や香りを豊かにする技術を事業化する「ティエラポニカ」をそれぞれ、ちとせグループの全額出資子会社として設立した。両新会社には、三井化学から秀崎友則氏と有富グレディ氏がそれぞれ社長として出向している。

 ちとせバイオエボリューションの藤田朋宏・最高経営責任者(CEO)は「大企業の合意形成のプロセスから離れ、まずは『こういう社会をつくりたい』という個人の意思を社会にぶつける作業が必要だ」と強調する。

 三井化学の福田伸・常務執行役員研究開発本部長は、協業の狙いを「研究開発をしてから顧客開拓する従来の方法ではなく、顧客のニーズという目線やスピード感を身につけ事業化を目指す」と意気込む。その一方、社長の2人は出向扱いで、「仮に事業化が難しい場合には、会社に戻れる」仕組みだ。

 これまで、多くの大企業には社内ベンチャーの仕組みはあったが、事業化に至らないケースが多かった。今回のような試みが広がるかは、大企業が失敗を恐れない企業文化や評価制度を作り、スピード経営にかじを切れるかが鍵になりそうだ。(上原すみ子)

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