また、上記の「中途半端な復元加工」問題や「問題把握後の公表」問題を見るに、無謬(びゅう)性(誤らない)を過度に重視する霞が関の組織文化の色濃い影響を感じる。人間が行う業務であるからして、誤りは避けられないのが常だ。むしろ、「誤ること」を前提として、問題を把握した場合には迅速にまず「謝り」、できるだけ根本からの修正を図る組織文化を構築することが肝要だ。
最後に、データやファクトを政策立案業務の基本に据えることを基本にしなければならない。政治家ならともかく、官僚の矜持(きょうじ)として、本来は、データを虚心坦懐(たんかい)に眺め、政策の修正や立案を図ることは業務遂行の基礎中の基礎であるべきだが、実態的には、雰囲気や勢いで政策の方向性が決まり、データは後から都合のいいものを付け足す、ということが少なくない。いわゆるEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)などの言葉がはやっているように、データやファクトを重視する機運が生まれては来ているが、まだまだだ。
今回の問題を厚労省の特定部署や、各省の統計部局に関する個別具体的な課題のえぐり出し、あるいは、統計に基づく各種保険などの過少支給問題などに矮小化させず、根本的・本質的な課題解決につなげていくことが大切だ。
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【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。