高論卓説

5G時代におけるビジネス変革 情報が即時多重化 求められる対応力

 先日、2019年度からの大幅なカリキュラム改変を記念して、私が教授を務めているデジタルハリウッド大学院のシンポジウムが開かれた。カリキュラム改変は、19年からの10年をにらみ、これまでのB(ビジネス)、C(クリエーティブ)、ICT(コミュニケーション・テクノロジー)を中心とした体系を、次の時代に向けて、「SEAD」と名付けたS(サイエンス)、E(エンジニアリング)、A(アート)、D(デザイン)の科目群に再編したものだ。

 シンポジウムのタイトルは「デジタル近未来論 5G時代のテクノロジー活用とビジネスの変革」。まず、総論的に語られたのが、高速大容量の第5世代(5G)移動通信方式時代には遅延がなくなりリアルタイム性が究極にまで高まるということだ。コンテンツの中でもライブや音楽が爆発的に面白くなる可能性がある。

 同時に起こった出来事をデバイス(機器)で共有している消費者が、同じタイミングでライブの動きに一喜一憂するというわけだ。音楽でも、昨年話題となった映画「ボヘミアン・ラプソディー」の中で印象に残ったクイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の足踏みと手拍子だけで何万人が盛り上がるような楽しみ方が5Gでは可能になる。そのような特性からユニークで面白いコンテンツが生み出されるようになる。

 次に「多重並列性」だ。回線の帯域を気にする必要が限りなくなくなることにより、同時多発的に起こる情報の授受にストレスを感じなくなるということだ。「リクエスト&レスポンス」の時代が終わり、一挙に膨大な情報を手にすることができるようになるので、人工知能(AI)の進歩により取得した情報から常に最適なものが自動的に出てくるようになる可能性を示唆する。

 これまで画像の圧縮とかネットワークの効率化に対するデジタル技術がもてはやされてきたが、それよりもデータ解析、さらにはそれを表現する技術が花形になることになる。

 デジタルツインといわれるような自分のクローンが繰り広げる人格の細分化により、デジタル時代では一人の人間が複数の人格に分割されて行動することができる。その場合はそれを具現化するAIのパワーがもっと必要になるため、さらなるAIの進化が望まれるとも指摘されていた。

 さらに「対面価値の重要性増」。リアルタイムで情報が受送信されて人が多重多元につながっていく中で、さまざまな話題や人格への対面対応が求められる。デジタル・コミュニケーションが増えるほど、リアルの対面価値も高まっていくとも考えられる。特に接客の分野はそうなるだろう。

 5Gの環境により迅速な意思決定が可能になる半面、人がどう対応できるのかということも顕在化され、人間のメンタル問題がさらにクローズアップされていくのではないかとの指摘もあった。天才的な能力を発揮する人が多く出る一方、メンタルがおかしくなってしまう人が増える負の部分も出るのではないかとの指摘だ。

 いくつかのキーワードで5G時代を予見すると一つの帰着点に収束する。デジタルが特別なものでなく、ある意味限りなく人間(アナログ)に近くなるということだ。デジタルの進展によって武装化されたスーパーヒューマンが未来の人間ともいえるようになることを予想させる。議論の中で、5Gは人間の欲望とうまくつながると爆発するという指摘もあったことも付け加えておく。

【プロフィル】吉田就彦

 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。富山県出身。

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