【主張】和牛の遺伝資源 法整備急ぎブランド守れ

 和牛の遺伝資源は国の宝だ。長年の努力で品種改良を積み重ねてきた国や自治体、生産者らの努力の結晶でもある。

 受精卵が海外に流出すれば、畜産農家は大きなダメージを受ける。ブランド力を保つためにも、海外流出の阻止に向けた官民一体の体制づくりを急がねばならない。

 農林水産省は2月中旬、和牛の受精卵や精液の海外流出を防ぐ具体的な仕組みの整備に向けた検討会の初会合を開いた。

 きっかけは、昨年7月に大阪在住の男が和牛の受精卵と精液を中国に持ち出そうとした事件だ。中国当局の税関で見つかったために未遂に終わったが、流出していれば海外で和牛が大量生産され、日本の畜産農家が深刻な被害を受ける恐れがあった。

 農水省はこの男を、家畜伝染病予防法違反(輸出検査)の罪で刑事告発している。

 牛肉の輸出は、昨年の畜産物の輸出全体の56%を占めている。和牛は世界と勝負している貴重なブランドである。

 その遺伝資源を、知的財産として保護する必要がある。

 まず、国内法の整備が欠かせない。日本から動物や肉などを海外に持ち出す場合は家畜伝染病予防法の規定で、家畜防疫官の検査を受けるよう定めている。違反すると3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。

 だが、同法は家畜伝染性疾病の発生や蔓延(まんえん)の防止を目的としており、遺伝資源の海外流出を想定していない。このため不正な海外流出を防ぐ効力が十分ではない。

 植物の新品種には育成者の権利を保護する国際的な仕組みがあるが、牛や豚など畜産物の品種にはそれがない。国内法の整備とともに、畜産物の遺伝資源を保護するための国際的なルールづくりも喫緊の課題である。

 和牛の特長は、赤身の間にあるサシの脂肪分のうまさにある。いわゆる霜降り肉は海外でも人気が高い。牛の肉質は血統の影響が大きく、人工授精が主流だ。海外の雌牛に和牛の受精卵を移植すれば同じ肉質の牛が生まれる。

 海外での類似品種の生産を食い止め和牛ブランドを守るには、遺伝資源の生産現場から流通過程まで切れ目ない監視体制を構築するための根拠法の整備が急務だ。ブランド力を一度失えば、取り戻すのは容易ではない。