高論卓説

超高度人材が日本に来ない理由 急ぐべき起業家精神養う環境づくり

 「本当の高度人材は、外国から日本には集まらない。野球に例えて、球速160キロのストレートを持つ投手は日本プロ野球には来ない」米シリコンバレーに勤務経験のある経営コンサルタントは、こう指摘する。また、米企業の事情に詳しい電子機器メーカーの首脳は、「世界のハイポテンシャルパーソンが日本に来ない理由は、日本企業や日本社会に魅力がないから」と話す。(永井隆)

 ITはじめ、研究開発の最先端で活躍できる人材を世界から呼び込もうと、日本政府は「高度専門職」という在留資格を2015年に設けた。学歴や年収などが基準で、永住許可でも優遇される。しかし、「マイナーのプレーヤーばかり。一流はいない」(経営コンサルタント)と手厳しい。

 米企業が一流の高度人材を獲得できる理由は、(1)職務給でありポストに応じて高額な報酬が最初から決まっている(2)人事権を部門長がもっているため、スカウティングが迅速かつ柔軟にできる-といった理由が挙げられよう。

 AI(人工知能)技術者などは、今や業界をまたいで世界的な争奪戦となっている。例えばだが、35歳で能力が高い外国人AI技術者A氏を、何としても採用したいと、日本企業の部門長が考えたとする。しかし、「年間で基本給が1500万円、成果給が最大1000万円(自社株含む)+通勤用に新車1台」という条件をライバルの外資企業が提示した場合、日本企業は太刀打ちできない。部門長が人事部長に掛け合って社内調整しているうちに、話はまとめられてしまう。

 「先端分野の技術者はまずは米企業、次に中国企業を今なら選ぶでしょう。年功序列の日本企業には、彼らの食指は動かない」と経営コンサルタント。

 もっとも、超一流のハイポテンシャルパーソンは、短期間で会社を辞めてしまうケースはある。というのも、彼が最終目標としているのは起業であり、IPO(新規株式公開)だから。その先には、社会変革を成し遂げようとする意思もある。部下との不倫を楽しめても、島耕作のようなサラリーマン社長などには、なりたいとは思わないだろう。

 なので、「一獲千金を狙えるベンチャーを起業しやすい社会の仕組みを、日本はいまこそつくっていくべきだ。世界中から一流プレーヤーを集めるためにも」と電子部品メーカー首脳は話す。

 さて、米国のGAFA(グーグル、アップルなど)の創業者たちはみな移民系である。グーグルを創業したセルゲイ・ブリン氏はロシア系移民1世であり、アップルのスティーブ・ジョブズ氏はシリア系移民2世として知られる。彼らは、英系、仏系、独系ではない。また、特別に裕福な家庭の出身ではない。

 今年4月、わが国では改正入国管理法が施行され、これまでは聖域とされてきた単純労働において外国人に門戸が開かれた。アジアの9カ国が対象だが、高度人材とは違い貧困と向き合ってきた人は多い。彼らが日本で働き納税し蓄財し、子供たちに高等教育を受けさせる。こうしたなかから、日本版スティーブ・ジョブズも現れていくはず。グローバルな高度人材の獲得において、中期的さらには長期的な視点に基づく施策も求められる。

【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は『移民解禁』『EVウォーズ』『アサヒビール 30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など多数。

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