理化学研究所開拓研究本部 柚木計算物性物理研究室 協力研究員・渡部洋
分子性物質の超伝導発現機構を理論的に解明
近年、有機分子を主な構成要素とする「有機超伝導体」が広く研究されており、これまでは難しかった1分子あたりの電子数の制御も実験的に可能になってきた。しかし、理論的な超伝導発現機構の詳細はほとんど明らかになっていない。有機超伝導体の一つであるカッパー(κ)型分子性物質のκ-(BEDT-TTF)2Xは、三角格子が変形した複雑な結晶構造を持ち、「幾何学的フラストレーション(三すくみの状態)」と呼ばれる複数のパターンがエネルギー的に拮抗し、不安定に揺らいだ状態が存在する。この物質での超伝導は、銅酸化物高温超伝導体と同様の発現機構によると長く信じられてきたが、近年ではそれと整合しない実験・理論も数多く報告され、解決すべき問題となっている。
今回、理研の研究チームは、κ-(BEDT-TTF)2Xの電子状態について、変分モンテカルロ法を用いた数値シミュレーションを行った。その結果、元の物質から電子数を減らした場合には、従来の銅酸化物高温超伝導体と同じタイプの超伝導が現れ、電子数を増やした場合には、幾何学的フラストレーションの効果により、三角格子に特有な新奇な超伝導が現れることを見いだした。
本研究成果は、長年未解明だった超伝導発現機構の解明に加え、超伝導転移温度の向上や新たな有機超伝導体の理論的予言を可能にし、有機エレクトロニクスのさらなる発展に貢献すると期待できる。
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【プロフィル】渡部洋
わたなべ・ひろし 2008年東京大学理学系研究科博士課程修了、博士(理学)。理化学研究所特別研究員、早稲田大学高等研究所講師などを経て、19年4月から現職。強相関電子系における超伝導と関連する現象のメカニズムを研究している。
■コメント=超伝導に対する普遍的な理解を深め、新たな超伝導物質の予言にもつなげていきたい。
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