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親族への事業承継を成功させる鍵

 事業承継の中でも、自分の子らの親族に承継する類型は、周囲の納得感が得やすく、親の背中を見ている子供が後継者に適していくケースが多いことから有力だ。現経営者の子供が後を継ぐ雰囲気が自然に醸成されることも多い。しかし、どこかの段階で、現経営者が後継候補者に会社を継ぐ意向を確かめるとともに、経営者としての思いや苦労などを率直に話し、承継をどのように進めていくかを話し合うべきだろう。(堂野法律事務所所長弁護士・堂野達之)

 後継候補者が自社と他社のどちらに就職した方が良いかは一概に言えない。筆者は他社に就職するのが望ましいという意見だ。後継候補者自身が視野を広げ、人脈を形成することは承継後に生かされるし、現経営者の会社も業況の変化などにより将来はどうなるか分からないからだ。

 後継候補者が他社に就職した場合は、子会社や部門などの「長」を経験してもらいたい。自社に就職した場合は、社長の指示系統から比較的独立した部門や子会社の「長」を経験させる。社長と他の役職とでは、責任の重さや見える光景が全く違うことを肌感覚で知ってもらうのが大切だ。

 現経営者が自社の強みを自分で整理しておくと、後継者の理解が深まる。例えば、中小企業基盤整備機構がフォーマットを出している「事業価値を高める経営レポート」などを自分で記入するといいだろう。

 市場環境や消費者ニーズの変化は激しく、後継候補者が現経営者にない独自の強みを持っていることは極めて重要だ。筆者の知るところでは、先代が収益拡大に傾注したのに対し、後継者は地元での経営者同士の交流や諸活動を大切にし、地域に根差したプロモーションなど先代とは違った領域を開拓して事業承継にも成功した。

 さらに、後継者が家業を引き継ぐ一方、既存企業から踏み出して新たな事業を立ち上げる「ベンチャー型事業承継」という動きも聞かれる。後継者自身が起業して自らの会社を育てて、先代の会社と合併する方向もあり得よう。

 事業承継は、継ぐ側と継がせる側双方の「覚悟」が求められる。後継者がこれからの経営は先代以上に厳しいことを覚悟すべきなのはもちろん、現経営者も承継するときはすっぱりと身を引いて、後継者の経営には口を出さないようにする覚悟が必要だ。成功している事業承継の事例は、いずれもこの点が守られている。現経営者は引退後に備え、経営以外の趣味を持ったり、何らかのコミュニティーに属したりするとよい。

【プロフィル】堂野達之

 どうの・たつゆき 東大法卒。2000年4月弁護士登録(東京弁護士会所属)。17年1月から現職。企業経営の総合支援を柱に据え、企業の誕生・成長・発展・再生・承継・終焉・第二創業のライフサイクルに密に関わり、特に事業再生と事業承継の案件に数多く取り組む。著書は「特定調停手続の新運用の実務」(共著)など。47歳。神奈川県出身。

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