寄稿

IPCC「気候変動と土地特別報告書」 (1/3ページ)

 食品の選択、食品ロス削減も気候変動対策に

 気候変動と土地特別報告書

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月8日、「気候変動と土地特別報告書」の政策決定者向け要約を公表しました。正式名称は「気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関するIPCC特別報告書」。2018年10月に発表された「1.5度特別報告書」と並ぶIPCC特別報告書の1つです。(WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー)・小西雅子)

 世界の土地は温室効果ガスの発生源であり、吸収源でもあるため、気候変動と深い関係にあります。その気候変動と土地の関係に特化したIPCC報告書は初めてです。

 今回の報告書では、産業革命以降、海などを除いた陸地の気温は、世界の平均気温上昇の約2倍の1.53℃上昇していることが指摘されました。それにより異常気象の頻度が高まり、食料安全保障や生態系に悪影響が及んでおり、砂漠化や土地劣化を引き起こしていることが示されました。

 現在人間が利用している土地は、氷のない地表面の70%にも及びます。その人間による農業や林業などの土地利用による排出量は、世界の温室効果ガス排出量の23%を占めていると分析しています。一方で、森林や湿地などが二酸化炭素(CO2)排出量の29%を吸収していることも明記されました。

 世界の平均気温上昇を1.5℃や2℃以下に抑制するには、土地利用に関する対策が不可欠であることを報告書は改めて示したと言えます。

 土地に関する気候変動対策

 報告書は、農業で土壌が劣化するのを防いだり、土地当たりの収量を増やす効率化を進めたりするほか、林業でも計画的に伐採と植林を行うことで、森林減少や砂漠化を抑えられると指摘しました。例えば、森林の減少や劣化を緩和すると、温室効果ガス排出量を4億~58億CO2トン/年も減らす可能性があることが示されています。こうした持続可能な土地管理は、温暖化を食い止め、気候変動の悪影響への適応にもつながると指摘しています。

 また、BECCS(木を育ててCO2を吸収させ、バイオエネルギーとして使った際のCO2排出をCCS技術を使って回収・貯留する)など、気候変動の緩和対策としての土地利用の可能性についても論じています。

 気候変動と土地に関する多くの知見が詰まっている今回の報告書ですが、中でも食料の生産と消費に関する知見は、日本人の生活に深く関わる内容であるため、ここで紹介します。

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