台風15号は千葉県の基幹産業である農林水産業にも大きな被害を与えた。県の4日現在の集計で、被害総額は約411億6700万円に上っており、自然災害では東日本大震災時の346億100万円を抜き、過去最大となっている。
55頭の乳牛を飼育する多古町北中の平山信知さん(71)は、集荷先が停電した影響で、9月9日から4日間に搾乳した3.6トンの生乳を廃棄せざるを得なかった。自身の牛舎も10日間停電し、発電機で搾乳機や扇風機を動かした。
だが7、8頭が乳房炎にかかり、治療後の検査で安全が確認されるまでの間、これらの牛から搾った乳は出荷できなかった。21日以降は平常通りに戻ったというが、平山さんは「乳を捨てるのは、諦めきれなくてなぁ」と当時の心境を語った。
同町西古内の男性(65)は、強風で牛舎の屋根の3分の1がめくれ上がる被害を受けた。飼育する乳牛40頭の一部は子牛用の牛舎に退避させたが、停電と復旧を3度も繰り返す目に遭い、ストレスなどが原因で乳房炎にかかる牛も出てきた。男性は「資材や職人の不足ですぐに牛舎を直すことができず、牛のいる場所がない。やむを得ず、10頭を処分するしかなった」と表情を曇らせる。
イチゴ狩りの人気スポットとして知られる山武市の19軒の観光農園でつくる「山武市成東観光苺(いちご)組合」の相葉英樹組合長(49)は「10年に1度くらいは台風被害を受けるが、今回はこれまでの2、3倍の大きな被害だった」と振り返る。苗の植え付け直前にハウスが被害を受け、組合員の中には一部のハウスで今シーズンの栽培ができないところもある。
相葉さんの農園も、ハウス40棟のうち6棟が全半壊する被害を受けた。台風一過後、無事なハウスで植え付けを始めたが、停電が12日間も続いた影響で地下水がくみ上げられず、作業に遅れが生じた。例年より2週間ほど収穫が遅れる可能性があるという。
相葉さんは「心配なのは、千葉のイチゴが食べられないのではという風評被害。来年の正月明けから始まるイチゴ狩りシーズンに間に合うように、組合員も力を合わせて頑張っている」と訴える。また、接近する台風19号にも警戒を強め、「二度とあんな目に遭わないように、しっかりと対策する」と話した。