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「ヤリス」高機能・低価格両立が鍵 「小型車はチープだというヒエラルキーを壊す」

 日本で20年親しまれた小型車「ヴィッツ」の名をあえて捨て、海外名「ヤリス」への統一を選んだトヨタ自動車。車台や部品、デザインの全面見直しによる性能の大幅向上を印象づけるためだが、一方で低価格や親しみやすさといった、小型車が売れる長所を保てるかが焦点となりそうだ。

 「一新したTNGAで、限られたスペースに全てを凝縮した。新たなスタートを切るとの思いで名前を変えた」。吉田守孝副社長は改名の意義を強調する。

 TNGAは車台などを一体開発し性能向上とコストダウンを両立させる手法。大型車などから導入してきたが、台数の多い小型車は新型ヤリスが第1弾だ。また、発売予定の来年には4種類の販売店で取り扱いが分かれていた車種の全店併売が始まる。「トヨタの車が大きく変わる」と、吉田氏は強調する。

 「スターレット」の後継となったヴィッツは、独フォルクスワーゲンなど欧州勢と戦えるレベルを目指し1999年発売。海外では当初からギリシャ神話の美の女神にちなんだヤリスの名で販売を進め、コンパクトさに負けない広さやデザイン、環境性能が受けて、2000年に欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。これがブームを牽引(けんいん)し、小型車市場はホンダ「フィット」や日産自動車「ノート」のほか、海外勢も参入する激戦区となった。

 こうしたなか、新型ヤリスは「小型車はチープだというヒエラルキー(階層意識)を壊す」(豊田章男社長)という戦略の下、高級車から投入されることの多い先進機能を積極搭載して差別化を図った。資料には「トヨタ初」「世界初」の文言が並び、軽量化や燃費、走りなど小型車ならではの基本性能もさらに高めている。

 だが不安もある。「名前を大事にするのがトヨタ。変えることは少し葛藤があった」と吉田氏は明かす。国内で長年親しまれてきた名前がなくなれば一からのアピールが必要だ。また「低価格の維持は最も大切」(開発担当者)とするが現段階で価格は未公表。競合が多いなか、先進機能を詰め込みながら低価格、収益性を維持していけるのか。トヨタの総合力が問われる。(今村義丈)

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