そんな状態だったのが現在のような関係になったのは、クックのビジネスマンとしての「能力」が背景にあるようだ。社会的にそうした発言をしつつも、ビジネスパーソンとして、水面下で個人的にトランプとの関係はきちんと築いていたらしい。
クックCEOが水面下で築いた「良好関係」と「経済効果」
トランプ当選後、クックはすぐにトランプにお祝いの電話を入れたといわれている。その後も、クックはアップルに絡んで何かことがあるとトランプに電話をかけて話をしているというし、パリ協定の離脱の際もトランプに電話を入れて説得を試みている。
ビジネス系の会議などでは顔を合わせており、また冒頭の夕食会だけでなく、18年の夏にも、ニュージャージー州のトランプが所有するゴルフ場で食事を共にし、トランプは「アップルのティム・クックと食事を楽しんだ。彼は米国にかなりの額を投資している」とツイートしている。
また娘の大統領補佐官であるイバンカや夫のジャレッド・クシュナー、ファーストレディのメラニア夫人とも実は良い関係を維持している。教育関連の問題でもクックはホワイトハウスに働きかけをしている。特にイバンカとは関係がよく、18年には一緒にアイダホ州の学校を訪問している。
そんな関係性は、19年3月にトランプが労働系の会議で、クックの名前を「ティム・クック」ではなく「ティム・アップル」と間違って呼んだ後の、皆の反応からも分かる。イバンカはすぐにそのニュースをリツイートし、「爆笑」の絵文字をアップ。クック自身も、自分のTwitterアカウントの名前を「ティム」と「アップルマーク」に変えて反応した。当のトランプはわざと名前を省略したと言い訳をして、失笑を買った。
とにかく、そうした背景から今ではトランプはクックのことを「友人」「尊敬している」と大っぴらに呼んでいる。「他とは違い、ティム・クックは大金をはたいてコンサルタントを雇うのではなく、ドナルド・トランプに直接電話をしてくる」と絶賛もしている。もっとも、トランプ側から見ても、打算が働いているのは間違いない。
米国第一主義で、国内の経済を最優先するトランプは、アップルが米国にもたらしている「経済効果」を評価しているからだ。トランプは実際に18年、一般教書演説で「アップルは3500億ドルの投資を米国内で行い、新たに2万人を雇用すると発表したばかりだ」と述べている。
さらにアップルは19年8月に公式サイトで、同社が「全米50州にわたり、240万人の雇用を生み出して支援しており、この数字は8年前の4倍になる」と発表している。また18年には、9000の米企業とのビジネスで600億ドルの取引をし、45万人の雇用を支えているとも喧伝(けんでん)している。
しかも20年に大統領選を控えているトランプにとって、この層にしかるべきタイミングで「優遇措置」をアピールするのも効果的かもしれない--。そんな計算があるのだろう。しかもサムスンを打ち負かすための措置となれば、「アメリカを再び偉大な国にする」ならぬ、新スローガンの「アメリカを偉大な国のままにする」の後押しにもなるだろう。