中小企業へのエール

自動運転に見た「日本の現場力」 強みの半面弱みにも

 出張でフランスに行って、びっくりしたことがある。メトロ路線の一部が完全無人化しているのである。失礼ながら、駆け込み乗車も当たり前で乗車マナーもひどい、かのパリで、無人運転とは。無人運転の路線には、安全柵を設けて、二重三重のチェックの上に、今日もメトロは動いているのである。(旭川大学客員教授・増山壽一)

 そして翌日、アルストムという世界を代表する鉄道車両の製造をはじめとする会社の幹部とさまざまな議論をする機会があった。アルストムはフランスなど欧州の新幹線を製造するだけでなく、最近では世界初の水素電車をドイツで商業的に走行させ、常にこの分野で先端を走っている。実は、高速鉄道分野などでは常に日本の良きライバルでもある。

 その幹部が、最近日本の鉄道会社に無人運転システムの導入を促したところ、「安全第一の鉄道で無人運転など考えられない。人間の目と耳でしっかりチェックしない限り安全は確保されない」と日本側から言われてしまった。日本は一体どうなっているのかと質問してきたのである。

 日本の鉄道分野は世界で最も進んだ分野だと自画自賛し、国民もそう思い込んでいる。確かに、芸術的とまでもいえる時間の正確性などや、世界で「7分間の奇跡」とまで称される東京駅での清掃員の掃除技術は、日本でしか見ることができない。ちなみに「7分間の奇跡」は、ハーバードビジネススクールのMBAの教科書にも掲載されていることから、日本の鉄道技術が世界に冠たるものと思い込んでいるのである。ただ、この掲載の理由は、陽の当たらないローテクの塊の清掃という作業を、制服の色を明るくして、働く人にモチベーションを与えて、効率性を高めた点がその理由らしいのですが。

 また、時間の正確性にしても、清掃の質の高さにしても、現場で働く人の頑張りに期待して達成されているだけのことで、現場は既に崩壊寸前であるとのこと。

 パリでは、人間のやることの方がよっぽど危ないというのが常識で、いかにシステムに置き換えるかを今懸命に行っている。人間がやることは、突発的なときの判断と、その責任を取ることであるとのこと。日本の現場力が強みであるとともに弱みになっていないか。考えさせられることしきりである。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。前環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。57歳。

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