こうした構造的な赤字要因をカバーするために、郵便局では保険や投資信託を売って、手数料収入を稼がなければならない。かんぽ生命とゆうちょ銀行から日本郵便に支払われる窓口委託手数料は実質的に年間約1兆円にも上る。
ただ、日本郵政には政府の出資が残る。その日本郵政の株式保有比率が過半を占める現状では、かんぽ生命やゆうちょ銀には、同業他社への配慮が民営化法で求められている。両社には預入・加入限度額の設定をはじめ有形無形の規制が存在しており、他社に比べて「商品が劣後する」(かんぽ生命幹部)のが実情だ。同社幹部は「株を売らないと新商品は認められない。だが、株を売るためには現在の商品ラインアップでも企業価値を高めることが求められる、という負のスパイラルに陥る制度設計となっている」と嘆く。
日本郵政グループは民間企業として利益を上げなければならない。そのことが、現実から乖離(かいり)したノルマの設定につながり、不適切販売を行う遠因になったことは否定できない。そして、疑わしい社員を追及するにも、かんぽ生命は「日本郵便の社員に対する人事権がないので限界がある」(幹部)という。これは、分社化による製販分離の弊害ともいえる。
もちろん、理由はどうあれ不正販売は許されるはずはない。ただ、現場からは「顧客本位と無理なノルマのはざまで、多くの郵便局長や社員が苦しんでいる」(日本郵便関係者)との悲痛な声が聞こえる。
真剣に再発防止を考えるのであれば、ガバナンスのあり方やコンプライアンスの徹底などと合わせて、現在の民営化・分社化の制度設計の妥当性にまで踏み込んで検証する必要があるだろう。(福島徳)