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「黒では1・8センチずつ痩せてみえる」錯視効果を数値化 「美しく欺く」科学

 黒い服には着やせ効果、アイメークを施した方が「デカ目」に見える-。こうしたファッションや美容の定説、耳にしたことがあるだろう。実は、見え方によって人間の脳がだまされる「錯視」の作用を応用したもの。印象論や主観で語られることが多かった“美しく欺く”効果を、科学的に証明する研究を大阪大の教授が進めている。(有年由貴子)

 白と黒のシャツとスカートを、さまざまに着こなした同一の女性の3D画像。同じ体形のはずなのに、白より黒い服を着た方が、シャツの裾をスカートの中に入れる「タックイン」の着こなしの方がよりスタイルアップしてみえる。

 「白に比べ、黒ではバスト・ウエスト・ヒップは1・8センチずつ細く、タックインでさらに1・3センチずつ痩せてみえる。また、タックインは7センチも脚が長く見える効果もある。全て『錯視』によるものです」。大阪大大学院の森川和則教授(61)=視覚心理学=が説明する。

 錯視とは、目の前にある事象と脳が認識するものとのずれが生じる現象だ。人間は、目に映ったものをそのまま認識するのではなく、脳内で分析し、さまざまな解釈を加えて組み立て直している。この過程で情報不足などが生じると、錯視が起こる。

 例えば、タックインで着やせしたり脚長に見えたりするのは、脳が見えているウエスト部分の情報をもとに見えない部分を推測することによる錯視が影響している。

 「私たちが見ている世界は、実は脳が作り上げた一種の仮想現実」と森川氏。

 錯視は部屋を広く見せる家具の配置など、日常生活で応用されているが、着やせ効果はスタイリストやメーカーの印象論などで語られることが多かった。森川氏は錯視の観点から科学的に裏付けることに着目。世界で初めて、服装による見た目の変化を測定することに成功した。

 実験では、日本人女性の平均体形の立体画像をコンピューターグラフィックス(CG)で作り、スリーサイズを2センチ刻みで増減させた体形の「ものさし」を作製。これらと平均体形にさまざまなパターンで白と黒のシャツとスカートを着せた画像とを組み合わせ、見え方を調べ、錯視効果を解析した。

 結果は、9月中旬の日本心理学会で発表された。森川氏は「これからはファッション業界も客観的なデータに基づいた着こなしが提案できるようになる」と期待する。

 「美の定説 覆すことあるかも」

 「錯視研究が何の役に立つのかと思っていたが、美容分野に進んでいくなんて夢にも思わなかった」

 森川和則教授が、錯視と美容との関係に着目したのは約10年前のことだ。東京大で視覚心理学を学び、米スタンフォード大で博士号を取得。幾何学的な図形の錯視を対象に研究をしていたが、指導する女子学生が卒業論文のテーマで化粧との関係を取り上げたのをきっかけに研究を始めた。

 当初は半信半疑だったが、従来の錯視の測定方法を応用し実験に取り組んだところ、想定外に良い結果が得られた。学会や国際学術誌で発表すると、大手化粧品メーカーから共同研究のオファーが寄せられた。

 化粧品の新商品開発にも関わる森川氏。顔の魅力度を最大にする化粧錯視の研究のほか、衣服の柄や体形ごとの着やせ効果も明らかにしたいと意気込む。

 「科学的な評価が入ることで、『美』に関する定説を覆すことがあるかもしれない。コンプレックスの解消など、錯視を人や社会に役立てられたら」

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