台風19号

「こんな目に遭うとは」浸水被害の川崎市、“見えぬ被災”続く

 台風19号の上陸から3週間以上が過ぎた6日午後、甚大な浸水被害があった川崎市高津区の、あるアパートの前では、住人の男性(72)が部屋の片付けに追われていた。1階の玄関先には、油絵などのキャンバスや写真のパネルなどが大量に積み上げられており、この後、引っ越し業者が来るのを待っているのだという。

 男性は一人暮らしで、約2年前からこのアパートに居住。グラフィックデザインを生業とし、東京都内の職場に通っている。若いころから描きためてきたという油絵などは「全てぬれてしまった」といい、「修正できるものは修正したい」とうつろな表情をみせた。

 波打つ平瀬川

 業務で使用するパソコンなどの機器類も、ほとんどが水没して壊れてしまい、「もう仕事にならない」。職場には当面の間、休業をお願いしているという。

 災害時、アパートは人の胸の高さほどまで浸水したようだ。障子にはくっきりと水のあとが残り、白い壁やふすまには、浸水したと思われる高さまで、黒々としたカビがびっしりと生えている。

 部屋の中は、CDや書籍が束ねられ、整然と床に置かれている。ただ、そのほとんどが泥で汚れている。押し入れの奥は壁が崩れ落ちている。風呂場やトイレの床は泥で覆われたままで、浸水被害の大きさを物語っている。

 「まさか自分がこんな目に遭うとは思いませんでした」。男性は嘆息した。台風が直撃した当日は、当初は自宅で待機していたものの、避難勧告を受け、着の身着のままで近くの小学校に避難した。玄関を出ると、目の前の平瀬川が増水してたぷたぷと波打ち、いまにも護岸からあふれそうになっているのが見え、恐怖を覚えたという。

 県営住宅に寄宿

 それから3週間以上が経過。アパートの大家から、改装のための立ち退きを求められ、仕方なく応じることにしたという。当初は民間のアパートを探したが、「この年齢だと、どこも入れてくれなかった」として、一時避難者を受け入れている宮前区内の神奈川県営住宅に寄宿することになった。

 ただ、県営住宅も最長6カ月までの居住期限が設けられており、その後、再び引っ越さなければならないという。そのため、「引っ越し先でも、荷ほどきはしないままにしておこうかな」と話し、途方に暮れた様子を見せていた。

 川崎市では、台風19号の災害復旧作業がいまも続いている。福田紀彦市長は定例記者会見で、「街頭など、ぱっと見では原状回復したように思えるが、部屋の中はまだめちゃくちゃになっているなど、見えない部分での被災者はたくさんいる」と述べ、今後も継続して支援に取り組んでいく姿勢を示している。(外崎晃彦)

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