アリババは、しばしばアマゾンの中国版と評されてきた。しかしアリババ前最高戦略責任者のミン・ゾン氏は「両社の成長戦略はまったく異なる。アリババは、アマゾンと違って新興市場でも競争力があるビジネスモデルを持つ」という――。※本稿は、ミン・ゾン『アリババ 世界最強のスマートビジネス』(文藝春秋)の日本語版スペシャル・エディション「著者ミン・ゾン氏との一問一答」の一部を再編集したものです。
中国の進化速度はアメリカの3倍以上
――本書はアリババを中心とする中国のインターネット企業群の知られざる実力を明らかにしている。
【ミン・ゾン】中国経済はあらゆる面において、先進国の後塵を拝していた。ただその分、足かせとなるようなレガシー(負の遺産)がなく、最先端のテクノロジーを採用して一気に世界最先端の小売業のモデルを構築することができた。アメリカの小売業が現代の形態になるまでにはおよそ100年かかったが、同じ進化が中国では30年で起きた。
これほど速く進化できたのは、見本があったからだという見方もある。たしかに製造業の世界では、中国企業は先進国のそれをロールモデルとし、既存のパラダイムに従ってきた。しかしインターネット企業は違う。アリババやテンセントのカウンターパートはアメリカには存在しない。
なぜアリババやテンセントがこれほど短期間でこれほどの競争力を持ちえたのかが本書のテーマだ。そこには世界中の企業の参考になるユニークな教訓がある。かつては誰もがアメリカのインターネット企業をモデルとしていたが、いまでは中国にも独自のモデルがある。アリババは間違いなくその一つだ。
アリババにあって、アマゾンにないもの
――日本では、まだアリババの真価が十分理解されていない。eコマース、クラウドコンピューティングなど事業分野が重複することもあり、「アマゾンの中国版」という見方も根強い。アリババとアマゾンの関係を、どうとらえるべきか。
【ミン・ゾン】アリババとアマゾンはともにeコマース分野の偉大なプレーヤーだ。アマゾンはアメリカの近代的で成熟した小売市場でイノベーションを起こした。一方、アリババは中国の脆弱な経済インフラ、未熟な小売市場のもとで最先端のテクノロジーを活用し、革新的モデルを構築した。そして顧客価値を生み出したことが、ここ20年の飛躍的成長につながった。アマゾンとはまったく異なるストーリーだ。
――アマゾンとアリババがそれぞれ独自の進化を遂げたプラットフォーム企業としてライバル関係にある場合、アリババの強みはどこにあるのか。
【ミン・ゾン】どちらも消費者に最高の価値を提供し、それぞれグローバルに事業を拡大することを目指している。最終目標は同じであり、そういう意味ではまちがいなくライバルだ。ただビジネスモデルはまったく異なる。
一つ明確になってきたのは、小売市場が未熟で、消費者の選択肢が限られた新興市場では、アリババのモデルのほうが競争力があるということだ。アリババ・モデルは多くの売り手や作り手の成長を可能にする。この「エコシステム・アプローチ」は、その国の経済成長の燃料となる。