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田植え省力技術「密苗」普及 高齢化・人手不足に光明

 種もみを従来の約2~3倍まいて密集した苗を育て、田植えを省力化できる新たな栽培技術が広がっている。「密苗」と呼ばれ、苗箱の運搬作業が格段に少なく、労働力や資材費を削減できる。ただ、苗が生育不良になるなどのリスクがあるほか、新たな田植え機を買う必要もあり、経済的負担も生じる。

 「密苗」は、2012年に石川県農林総合研究センターと同県の農家佛田利弘さん(59)、ヤンマーアグリ(大阪市)などが共同開発した。佛田さんは海外へ視察に行った際、韓国や台湾などで高密度で育てる様子を見ていた。日本でも、仲間の農家が比較的高密度で育てていることを知り「技術さえあればもっと飛躍的に密度を高くできるはず」とメーカーに提案したのがきっかけだった。

 ヤンマーアグリによると、これまでは対応した田植え機がなく、効率化を図って農家が独自に種もみの量を増やそうとしても量は限られていた。16年12月に「密苗」に対応した新たな田植え機の販売が始まり、高密度な苗でも従来通り3~4本ずつ精密にかき取って植え付けられるようになった。これまでに青森県や長野県、宮崎県など10道府県の農家が実証試験に参加。東北や北陸を中心に全国各地で急速に普及が進んでいる。

 北海道旭川市の農家荒川始さん(39)は、所有する約36ヘクタールの水田のうち、約6ヘクタールで「密苗」を導入。リスクを避けようと少しずつ面積を拡大している。導入前は運転手や助手など6人の補助作業員を雇って田植えをしていたが、今年は苗箱が大幅に減って2人で足りた。年間で人件費や資材費など約150万円を削減できた。

 ただ、荒川さんは仲間と共同出資して、対応した田植え機と種まき機の購入に約500万円を費やした。「高齢の母親も重労働が楽になって喜んでいるし、収穫量や質はそのまま保てる革命的技術だが、機械の購入費は農家にとっては大きな痛手だった」と振り返る。

 また、荒川さんは「密度が高い分、栄養不足や病気へのリスクも高まる」と話す。育苗期間の目安を通常より1週間ほど短い約2~3週間に設定しており、生産スケジュールの見直しや、与える水と肥料の量の調整などが求められるという。

 稲作技術に詳しい九州大の南石晃明教授は「高齢化や人手不足が進む農家にとって『密苗』のメリットは大きく、特に大規模農家のコストダウンに効果的だ。ただ、正しい知識と高い技術が前提条件なので、よく見極めて導入する必要がある」と指摘している。

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