「セントラルキッチン、自社物流で毎日何回も打ち立ての麺を運ぶ。出店は鮮度を保てる範囲内の地域に限り、全て地域密着の直営店運営をしています」と同社担当者。
市内中心部の名駅、栄エリアでは観光客が全体の3~4割。それでも、その他の店舗は地元のリピーターが中心だという。
「家族の日々の団らんの場として、親子代々のご利用など長く親しんでくれているお客さまが多い。普段使いからごちそうとしての食事、ビジネスの接待、他県からのご友人をアテンドするなど、さまざまなシーンでご活用いただいている。正月・お盆、季節の連休には観光客の他に帰省客のご利用も非常に多い」という幅広い活用のされ方は、まさに地域で愛されている老舗ならではだ。
出店ペース加速も、手綱引き締める「宮きしめん」
名古屋めしの中で全国的に最もポピュラーな料理がきしめんだ。なかでも外食シーンの中で伸び盛りなのが「宮きしめん」である(経営は宮商事)。創業は大正12年(1923年)。もともとは土産、ギフト用商品が主力のメーカーだが、先のあつた蓬莱軒同様、熱田神宮の境内に食堂を構えていることで、地元では古くから親しまれている。
飲食店はこの神宮境内の食堂を含めて現在9店舗。2002年にジャズドリーム長島店(三重県長島町)をオープンしたのを皮切りに中部国際空港(愛知県常滑市)、御在所サービスエリア(三重県四日市市)、土岐プレミアムアウトレット(岐阜県土岐市)、そして名古屋市内のKITTE名古屋、グローバルゲートと大型商業施設への出店が相次ぎ、今では飲食部門の売り上げが全体の7割を占め、物販との売り上げ比率が逆転している。
このような収益構造の変化は、名古屋めし人気がもたらしたものと言っても過言ではない。
「『名古屋めし』を目的とする若者や観光客が増え、ラシック(名古屋中心部にある三越系列の商業施設)内の店舗に行列ができるようになった。これがきっかけで他の商業施設からオファーが相次ぎ、飲食店の出店に拍車が掛かった」と、宮商事常務取締役の伊藤嘉英さんは話す。
若者客の増加に合わせて、商品開発も活発になっている。カルボナーラきしめん、台湾まぜきしめん、冷やし坦々きしめんなど、近年は創作きしめんメニューを積極的に導入。SNS世代の女性や若者らにウケて、情報発信の面で効果を上げている。
新たな試みにチャレンジする一方、飲食事業に注力する中で痛切に感じているのは基本をおろそかにしないことだという。
「新規出店した際に、最初に思うように売り上げが上がらないと、つい焦って変化球的メニューを投入したりするのですが、結果的に失敗に終わることが多い。ある店舗では提供スピードを優先してダシを変えたところ、わずかな味の変化に気づいたお客さまが離れてしまった。目先を変えたり効率化を優先したりするのではなく、強みを伸ばすという姿勢が大切だと、いくつもの失敗を経験して学びました」(伊藤さん)
そして、強みを伸ばすとは、すなわち絶対的なおいしさの追求だ。
「秋田県湯沢市で2011年から開催されている『全国まるごとうどんエキスポ』で、昨年初めてグランプリに輝き、今年も準グランプリを獲得した。東京などからの出店オファーは以前からあり、5年前はまだ自信がなかったが、今なら“行けるのでは”という手応えがある。ただし、最初は物珍しさである程度の売り上げは見込めるのでしょうが、“おいしいからまた”というリピーターをつかまなければ成功しない。それにはシンプルなきしめんのおいしさで勝負することが何より大事だと考えています」(伊藤さん)
非観光地だからこそ、地に足を着けた経営
ひつまぶし、みそ煮込みうどん、きしめんといった伝統的な料理の代表的な店舗が、観光客を中心に新規客を獲得して業績を伸ばしていることからも、名古屋めしビジネス全体の活況ぶりがうかがえる。と同時に、これらのトップブランドが品質のクオリティーを第一に考えて、店舗展開に慎重なところにも、名古屋企業らしい堅実さが表れている。
名古屋企業や名古屋人のこうした姿勢や気質は「石橋をたたいても渡らない」と評されることも多い。だが、近年トレンドビジネス化の傾向が強く、スクラップ&ビルドを前提とした業態開発や出店が少なくない外食シーンの中にあって、このような地に足を着けた姿勢はむしろ貴重ともいえる。
各企業のこのような姿勢の背景には、名古屋がもともと観光地ではなかったことがある。近年でこそ、名古屋市が観光地としてのブランド戦略に力を入れ、ここ10年で観光客はおよそ1.5倍にも増えているが(06年3074万人→17年4734万人/名古屋市観光客・宿泊客動向調査)、それでも国内の名だたる都市にはまだまだ及ばない。そんな土地柄にあって、名古屋めし企業の多くが、あくまで地元の消費者をメインターゲットとして手堅い商売を続けてきた。先の3社にしても、観光客が増えたとはいえ、各社とも地元客が7割と依然、地域での支持は根強い。
地域密着にこだわる理由を山本屋本店はこのように説明する。
「リージョナルストアの強みを生かして、名古屋に来ないと食べられない付加価値で腰をすえて商品を提供している。地元以外の多くのお客さまにも召し上がっていただきたいが、品質を落とすことなくいいものを提供する、鮮度第一だと考えている」
名古屋めしを代表する各ジャンルの老舗が、ご当地グルメにふさわしい地元優先の姿勢を打ち出し、何より地域で長く愛されている。これこそが名古屋めしビジネスの地力の強さといえるのではないだろうか。(ITmedia ビジネスオンライン)