リニア中央新幹線の静岡県内の工事をめぐり、JR東海と静岡県の協議が難航している。トンネル工事が環境に悪影響を与えるとして、川勝平太知事が着工に「待った」をかけたためだ。
日本の東西を結ぶリニア新幹線は国家的な大型事業である。政府がJR東海と県の仲介に乗り出したが、協議打開のめどは立っていない。このままでは開業時期が大幅に遅れる恐れもある。
周辺環境への十分な配慮は不可欠だが、政府を交えた協議自体に注文を付ける川勝氏の姿勢には首をかしげる。関係者は冷静な話し合いを進めるべきだ。
そのうえでJR東海は静岡県だけでなく、静岡市など関連自治体への説明も尽くしてほしい。
東京-名古屋を40分で結ぶリニア新幹線は、2027年の開業を見込む。早ければ37年に大阪まで延伸し、日本の三大都市が最短67分でつながる計画だ。将来の日本を支える新たな国土軸として活用が期待されている。
だが、静岡県内では南アルプスを走るトンネルの一部に地下水が流入し、大井川の水量の減少が指摘されている。JR東海は工事で出たわき水の全量を川に戻すとしていたが、その後、工事期間中は全量を戻すのは困難とし、県との対立が深まった。
このため、国土交通省が仲介に乗り出したが、川勝氏が他省庁も加えた協議を求めたため、話し合いは膠着(こうちゃく)状態に陥っている。すでにリニア工事は始まっているのに静岡県内だけ着工できていない状態にあるのは残念だ。
リニア新幹線は静岡県内に駅がなく、その経済的なメリットは小さいとされる。川勝氏は今年6月にJR東海に経済的な代償を求める考えを示唆した。同社による一定の合理的な負担を含め、国交省が主導して環境対策などでも真摯(しんし)な協議を進めるべきだ。
現在の東海道新幹線は、ピーク時の運行本数が1時間あたり15本に達している。新型車両に切り替わる来春には17本にまで増やす予定だが、その輸送能力は限界を迎えつつある。
また、首都直下や南海トラフ地震などの発生も懸念される中で、東西を結ぶ大動脈の維持は重要な課題といえる。東海道新幹線に加え、リニア新幹線で複数の東西経路を確保しておくことは、国土強靱(きょうじん)化の観点からも必要である。