高論卓説

ETC普及進める中国 同様の方式、日本への波及効果も期待

 総延長が14万キロを上回る中国の高速道路で、現在2つの大幅な改革が行われている。「省界料金所」の廃止とETC(自動料金収受システム)の普及である。省界料金所とは省(自治区・直轄市を含む)との境界にある料金所で、日本でいう本線料金所にあたる。(森山博之)

 中国の高速道路は、省ごとに建設されてきたため、省境に料金所を設置し、管轄する政府ごとに通行料金を徴収し、道路建設費用を捻出してきた経緯がある。ただ各地の高速道路に存在するこの本線料金所を通過するのに、平均15分かかっているというデータもあり、渋滞の原因となっていた。そのため今年5月に、229カ所ある省境の本線料金所を年内に全て撤廃する方針が打ち出された。

 さらに料金収受の際に車を停止させないで通行できるETCを普及させ、渋滞を減らそうという「高速道路のETC化によるノンストップ料金徴収実施案」も発表された。

 3月末時点での中国のETC装着件数は8072万件で、自動車全体での普及率は34%、高速道路での利用率は45%である。これを12月末までに高速道路の料金所のETC化の全面実施、装着件数の1.8億件超、さらに高速道路でのETC利用率90%超を達成しようと計画している。

 この目標達成のために、7月よりETC利用車両の通行料金を5%以上割り引く優遇政策も実施済みである。さらに200元(約3200円)程度のETC車載器とその取り付けを無料で行うというキャンペーンも開始している。

 日本の場合、2001年にETCのサービスを開始したが、利用率が90%台へ到達するまでに15年ほどかかっている。13年にETCの運用を開始した中国は、6年でこの90%の利用率を達成しようとしている。

 通行料金の支払い方法は、日本と同様のクレジットカードによるものだけでなく、デビットカード、プリペイドカードなどが利用できる。中国のETCは日本同様、車載器にも発振器を内蔵したアクティブDSRC(5.8ギガヘルツ帯)という方式が採用されているので、中国で普及が進めば部品価格が下がり、日本のETC車載器のコストダウンも期待できるかもしれない。

 スマートフォンのQRコード決済が普及している中国だが、ETCの普及に伴い、決済に便利なクレジットカードが見直されているようである。クレジットカードだと残高不足の心配がないからだ。

 日本でも中国同様、高速道路の渋滞の原因の一つに本線料金所の存在があり、その撤廃に向けて首都高速道路も取り組んでいる。首都高のETC利用率は96%(高速道路全体で92%)だが、利用率の一層の向上のため、来年3月まで先着10万台にETC1台につき1万円の助成金を支給して、装着率を上げるキャンペーンを実施している。日本はクレジットカードでしか決済できないが、その他の決済方法の導入などで中国の多様な決済方式も参考にできるのではないだろうか。

 中国のETC化は順調に進んでおり、11月初旬で北京市は96.5%を達成している。11月中旬に筆者が遼寧省瀋陽市で利用したタクシーもETCを装着済みだった。ただ配車アプリを使わずにタクシーに乗車した場合、ETCのゲートを通過すると高速料金の領収書が発行されない。領収書が必要な場合は、有人のゲートを利用するよう運転手に前もって指示する必要があり、この点はちょっと面倒である。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 旭リサーチセンター、遼寧中旭智業研究員。早大卒後、旭化成工業(現旭化成)入社。広報室、北京事務所長などを経て2014年から現職。大阪府出身。

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