リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞に決まった旭化成の吉野彰名誉フェロー(71)が8日、ストックホルム大の講堂で受賞記念講演をした。環境や経済、便利な生活のバランスがとれた将来の持続可能な社会づくりに「リチウムイオン電池が中心的な役割を果たす」と話した。
タイトルは「リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」。冒頭「(大学ではなく)企業研究者の私が受賞したことに日本中が大変興奮した」と切り出した。
吉野氏は、蓄電池を積んだ電気自動車(EV)が普及した未来社会の構想を動画で紹介。人工知能(AI)による自動運転を組み合わせれば事故や渋滞がなくなる。車をみんなで共有すれば手近な空車を呼んで使うことができ、個人の費用負担も抑えられるとした。
太陽光や風力など再生可能エネルギーでつくった電気を街のステーションでEVに供給し、発電が不安定なときはEVから家庭などに電気を供給することも可能と説明。「技術革新により、持続可能な社会は近い将来、実現できる」と展望した。
講演では、生い立ちから電池ができるまでの流れも紹介。小学校の頃、英国の科学者ファラデーの著書「ロウソクの科学」を読み、化学に興味を持ったという。
京都大を経て旭化成に入ってからは、白川英樹筑波大名誉教授(83)が発見した電気を流せるプラスチックを使って電池の開発を開始。最後は負極に炭素材料を使って基本構成を決めたことや、実験で試作品を破壊しても炎上せず、安全で実用化が可能だと確信したとのエピソードも語った。(ストックホルム 共同)