リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

松山市・野志克仁市長(2-1) 温泉、城…豊富な観光資源生かす

 道後温泉、松山城、司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」や夏目漱石の「坊っちゃん」などで知られる松山市は豊富な観光資源を生かした誘客に加え、温暖な気候と都市機能がコンパクトにまとまる利便性の高さで住みやすい街としても注目を集める。

 コンパクトな都市

 2010年から市長を務める野志克仁氏は「(地元にある)宝を見極め、それを磨くまちづくりを進めてきた。魅力である『いい、加減(ちょうどいい)』を伝えることで一人でも多くの人を笑顔にする」と目を細めながら言い切る。

 --四国最大の人口50万人を抱える松山市を支える主要産業は

 「第3次産業就業者が7割を超え、中でも観光が基幹産業だ。携わる業界は交通、宿泊、飲食など裾野が広い。そのおかげで18年には観光客が6年連続で増加し、外国人観光客は6年連続で過去最高を更新、観光客の推定消費額は約788億円に達した。この数字は松山の住民税や固定資産税など全ての市税収入を上回っている。市にとって観光は地場産業であり、非常に大切な産業といえる」

 --観光客誘致に成功している理由は

 「女性の一人旅に人気の温泉地として道後が5年連続で1位に選ばれた。空港から市街地まで車で約15分、市街地から道後まで約15分というコンパクトシティーが要因の一つだ。時間がなくて入浴できなくても手湯、足湯を楽しめる。源泉にじかに触れられ、タオルで拭かずに乾かすと温泉成分で手がつるつるになる。浴衣姿で出歩いたり、充実した和洋のスイーツを堪能したりできる。路面電車も頻繁に行き来しており回遊性・滞在性も高く市経済を潤している」

 --道後温泉本館は保存修理工事中と聞くが

 「1月15日から営業しながら保存修理工事に入った。1894(明治27)年に当時の道後湯之町初代町長の伊佐庭如矢さんが『100年先にも他所がまねできないものを造ってこそ、初めてそれがものをいうことになる』との熱い思いで改築。それから125年たった今でも人が集まる歴史的建造物だ。1994年には公衆浴場では初めて国の重要文化財に指定された。しかし古くなり、子や孫の世代まで松山の宝を受け継ぐため保存修理工事を始めた」

 重文修理も前向き

 --市長の名刺には「工事中も入浴できる」と書いてある

 「工事は必要だが、観光客が減るのは心配だ。工事期間中に来場者が前年比50%以上減少した施設もあると聞く。どれだけ落ち込みを防ぐかがミッションだが、地域や市職員の頑張りで9月末までは5%減にとどまっている。『工事か』といってうつむくのではなく、『空を見上げると青い空、鳥のさえずり、それに笑顔の市民と会える』と説いていくうちに、『落ち込むわけにはいかない』と雰囲気が変わった」

 --観光客を減らさないために取り組んだことは

 「工事中ならではの魅力を伝えるため、漫画家・手塚治虫さんが生涯かけて執筆した『火の鳥』とコラボし『道後REBORNプロジェクト』を始めた。復活を繰り返し、時代を超えて人類を見守る火の鳥の姿を道後温泉本館の復活・再生と重ね合わせた。その一環として本館ラッピングアートやプロジェクションマッピングなどを始めた」

【プロフィル】野志克仁

 のし・かつひと 岡山大経済卒。1990年南海放送入社。アナウンサーとして地元人気情報番組や市政広報などを担当。アナウンス室マネージャーなどを経て2010年10月退社。同11月松山市長就任し現在は3期目。52歳。愛媛県松山市出身。

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