論風

現代貨幣理論(MMT)の誤り 懸念されるインフレとモラルハザード (1/2ページ)

 日本、米国、英国のように自国建て通貨を発行する国は、際限なく国債を発行でき、赤字を躊躇(ちゅうちょ)せず財政支出を拡大できるとする経済理論が話題になっている。現代貨幣理論(MMT)と呼ばれるもので、米国の一部の経済学者と貧困救済を掲げる民主党議員が提唱している。財政難の中でも財政出動を継続していけるとしたら魅力的な理論だが、果たして真偽のほどはどうか。まず、この理論の実施によって看過できないインフレが起き得るのではないかという、識者たちの議論が集中する論点から見ていく。(上智大学名誉教授・大和田滝惠)

 消えないインフレ懸念

 提唱者によると、唯一の制約である過度のインフレが起きない限り、この理論は実施可能で効果を発揮する。また、インフレが加速する兆しが見えたら財政支出のカットや利上げや増税でインフレは制御できるとする。この理論の反対派は、債務が増大し続ければインフレが止まらなくなり、ハイパーインフレに行き着くのが必然的な帰結で、危険な理論だという。

 危険な事態になり得るのは、市場のマインドが絡んでくるからだ。債務がどこまで増大しても無風で済むとは限らない。何らかのきっかけで、ある時点から市場に異変が起き得る。その後に制御可能かどうかは不透明で、誰にも分からない。複雑に絡み合う人々のマインドの集合で展開する市場は読み切れないところがある。自国建て通貨の発行でも、何をもって通貨量がどの程度超過したかの客観的な基準はなく、市場が判断する。MMTは錬金術であり、実体経済と懸け離れた通貨の増発は、社会が成り立たなくなる結果に向かわせる危うさを孕(はら)んでいる。

 モラルハザード問題

 次に、筆者が考えるMMTの最大の問題点は、経済社会の活性化にとって最も警戒すべきモラルハザード(意欲の減退)をもたらすということだ。財政赤字を気にしなくてもいいなら、政府は政権維持のための人気取り(ポピュリズム)から、困窮の救済を大義名分に各種給付を増発・連発するようになるだろう。大盤振る舞いを享受する人々は働く意欲を希薄にし、モラルハザードが蔓延(まんえん)した社会はやがて沈滞・消衰していく。

 モラルハザードは、ベーシックインカム(BI、基本所得保障制度)の導入に際して起きるか否かと、よく議論されてきた。生活保障給付を受けた者はやる気をなくすのではなく、かえって快活に自分の好きな仕事に邁進(まいしん)するようになり、社会は活気づくと主張する識者がいる。筆者はそれには懐疑的で、基本所得が保障されたら生活を維持するため頑張りが必要な仕事をやり通したり、自分の嫌な仕事にも挑戦したりできるだろうか。それらの結果は社会の活性化や発展はおろか、その維持すら困難となる深刻な事態を招く。MMTにも相通じる本質的な欠陥だ。

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