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“頼れる父”と起業の壁を破れ スタートアップ支援 弁護士や先輩経営者ら奮闘

 独創的な技術やアイデアを生かし起業したにもかかわらず、資金調達や知的財産戦略、ガバナンス(企業統治)などでつまずくスタートアップ企業は少なくない。起業時の壁を乗り越え成長軌道に乗るには支援者が欠かせず、対応が後手に回りがちな法的リスクの面倒を無償で見る弁護士事務所や、自らの起業経験を生かし立ち上げを請け負う経営者が奮闘している。

 交渉を委ね開発専念

 「問題が起きるとみてもらう父親的存在」

 九州大発IT医療のメドメイン(福岡市中央区)を立ち上げた飯塚統代表取締役CEO(最高経営責任者)が紹介したのは、明倫国際法律事務所(同)の田中雅敏代表だ。

 2人は2017年秋、福岡市のスタートアップ支援施設「フクオカグロースネクスト(FGN)」で出会い、飯塚氏が翌年1月に起業を相談したのがきっかけで付き合いが始まった。

 米シリコンバレーで、投資家に事業計画や将来性をアピールする「ピッチコンテスト」に出場して優勝。起業への弾みがついたときだが、立ち上げメンバーは同大医・工学部生4人で「法務も税務も人事労務も分からない」(飯塚氏)という不安を抱えていた。

 相談を持ち掛けられた田中氏は「ピッチで優勝し事業性は高く、社会的意義も大きい。革新性もあるので手伝うことにした」と振り返る。明倫国際が事務所としてスタートアップ支援を打ち出す前だったが、飯塚氏のしっかりとした考え方に共感し応援を決めた。

 メドメインが目指すのは、患者の細胞を顕微鏡で観察して疾患の有無などを判断する病理医を助けるソフトの開発だ。慢性的な不足で診断に時間がかかっている現状を打開し、世界中の誰もが高精度で迅速な病理診断を受けられる環境をつくる。

 18年10月に病理画像診断支援ソフト「PidPort(ピッドポート)」の運用を開始し、開発段階から稼ぐ段階に到達。来年初めにも本格的に売り出し世界を目指す。

 とんとん拍子で事業は進んでいるが、ソフト開発は国内外の医療機関と共同で取り組んでおり、主張の強い外資に知財を奪われかねない。こんなときに頼りになるのが田中氏で、飯塚氏は「しっかりと交渉してもらっている」と当てにする。それだけ得意とする開発に打ち込めるわけで、なくてはならない存在だ。

 田中氏は「上場もそんなに先ではない。ユニコーン(企業価値10億ドル以上)になれる素質はある。成長は子供より早い」と目を細める。その顔はまさに父親だ。

 田中氏率いる明倫国際がスタートアップ支援に乗り出したのは18年6月。7人の専門家が集まりチームを編成、完全無償型顧問契約「エンジェルプラン」を用意した。社会的意義、経営者の資質(熱意)、事業性を基準に支援先を選定。標準的な顧問契約内容を通常6カ月間、無料で提供する。

 枠は2社しかないが、これまでに20社を支援。このうちファイバーゲート(札幌市中央区)は18年3月に上場。スタートアップが見据えるエグジット(出口戦略)にも力を貸した。

 田中氏は「フルコースの支援で手間はかかるが、これで収益を上げるつもりはない。好きでやっている」と言い切る。ファイバーゲートとはその後、通常の顧問契約を結んだが「その必要も義務もない。弁護士の社会的使命として純粋に無償」と真顔で語る。

 組織づくり二人三脚

 一方、「本業は参画しているスタートアップの立ち上げ支援」と断言するのは、デジタルマーケティングの企画・制作などを手掛ける本気ファクトリー(東京都港区)の畠山和也代表取締役だ。ソフトバンクやリクルートを経て独立したが失敗。その後、スタートアップなどで会社員を経験し再度独立。その経験が生きて「スタートアップの一員として事業立ち上げに携わるようになった」パラレルキャリア人材だ。

 取締役(当初は顧問)として立ち上げ初期から手伝う一社がH.I.S.Impact Finance(同新宿区)。エイチ・アイ・エスの子会社として決済代行業などを手掛ける金融スタートアップで17年11月に設立された。同社時代に東小薗光輝代表取締役が通っていた「沢田経営道場」で講師を務めていたのが畠山氏で、これを縁に二人三脚での組織づくりが始まった。

 東小薗氏がシステム開発、マーケティング、採用、資金調達など次々と企業成長に必要な課題を挙げると、畠山氏が解決に向けて動くという構図がいつの間にか出来上がった。東小薗氏は「私のアイデアを勝手に察して動いてくれる便利屋」と畠山氏を評する。

 畠山氏はこのほかにも、スマートフォンや専用リモコンキーから扉の鍵を開閉できるスマートロックを開発・製造するビットキー(同中央区)で広報と協業推進の責任者を務め、若者向け教育事業を手掛けるBYD(同台東区)では経営全般を担当する取締役として活躍する。

 経済活性化には産業の新陳代謝を促すスタートアップが数多く誕生することが不可欠だ。畠山氏は「日本に必要なのは新しい事業がどんどん生まれること。今後も変わらず請負人として関わっていく」と言い切る。(松岡健夫)

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