主張

郵政3社長辞任 民営化の原点に立ち戻れ

 かんぽ生命保険の不正販売問題をめぐり、金融庁が同社と日本郵便に対し、保険の新規販売業務を3カ月間停止するよう命じた。総務省も日本郵政と日本郵便に行政処分を発動した。

 これを受けて、グループを統括する日本郵政の長門正貢氏ら3社の社長が引責辞任する。併せて総務事務次官の更迭に至った行政処分情報の漏洩(ろうえい)問題で、情報を受け取ったとされる日本郵政の鈴木康雄上級副社長が辞任する。

 前代未聞ではある。だが、経営責任を明確にしないかぎり、失墜した信頼を取り戻すことはあり得ない。辞任は当然であり、むしろ、遅すぎたくらいである。

 一連の問題で露呈したのは法令順守意識のかけらもない企業風土であり、これを放置したガバナンス(企業統治)の欠如だ。その深刻さを軽視し、後手の対応で混乱を広げた経営陣の責任は重い。

 新経営陣は組織のありようを一から見直さなくてはならない。特に日本郵政の新社長となる増田寛也氏には、グループ全体の解体的出直しを主導する責務がある。

 その際に重要なのは、民営化の原点に立ち戻ることだ。

 今回の問題が悪質なのは、いまだ国の関与が残る郵政ブランドの信用力を背景として、高齢者を中心とする顧客に虚偽の説明で保険を売りつけたことだ。法令違反を含む手口は「官業詐欺」と非難されても仕方あるまい。

 行政処分の情報漏洩も同じである。総務省の現職次官が日本郵政に天下りした元次官に処分情報を流す。こうしたなれ合いの構図は郵政グループに官業体質が残っている証左である。その弊害を排除しなければならない。

 辞任した3社長は民間企業OBだが、新たな3人はいずれも官僚出身という経歴を持つ。民間企業では当たり前のガバナンスを徹底できるのかが問われよう。

 かんぽ生命と日本郵便の新社長はともに旧郵政省出身だ。平成19年の民営化当初から郵政グループにいるため、通常の天下りと区別しているのかもしれないが、官民癒着が批判されていることを厳しく受け止めなくてはならない。

 情報漏洩問題では高市早苗総務相が次官辞職を発表した後も日本郵政は沈黙を続けた。副社長の辞任で終わりという話ではない。新体制になっても詳しい説明責任があることを銘記すべきである。

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