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仏海軍拠点で中国企業がビジネス学校を経営 「スパイ」告発本も出版される

 英仏海峡に面したフランスの軍港都市ブレストに、中国のインターネット企業が進出し、ビジネス・スクールの経営権を取得した。一帯は原子力潜水艦の基地がある海軍の要衝だけに、「本当の狙いは何か」と臆測を呼んでいる。(ブレスト 三井美奈)

 「スパイ」告発本

 この学校は「ブレスト・ビジネス・スクール」。瀋岱・最高経営責任者(CEO)(52)に、中国政府との関係を尋ねると、流暢(りゅうちょう)な仏語で「ここは欧州の学校です。共産党政権の教育方針とは関係ありません」と話した。丸顔で笑顔を絶やさないが、眼鏡の奥の眼光は鋭い。

 同校は2016年、中国インターネット教育大手「偉東」が700万ユーロ(約8億円)で経営権を取得。巨大経済圏構想「一帯一路」構想の担い手育成を目指す「シルクロード・ビジネス・スクール連盟」に加わった。学生は約500人。経営学修士のネット通信課程には、中国で約800人が在籍する。

 仏西部ブルターニュ地方にあるブレストは偉東の本拠地・青島市と友好都市関係にあり、経済協力が進む。だが、今年10月、「ブルターニュは中国スパイの狩り場」とした告発本が出版された。首相直属の情報機関が昨年まとめた極秘文書をすっぱ抜いた。

 同書によると、ブレストで中国人の女子留学生が軍関係者に接触し、結婚が急増。情報機関は、偉東がビジネス・スクールのほか、フランスで職業教育の大手企業を買収したことに注目しているという。この企業は、軍関連の採用試験の教育を担っているからだ。

 著者で仏誌記者のアントワーヌ・イザンバール氏は、「ブレストでは博士号取得者の3分の1が中国人という学校もある。近隣に軍関連で400近い企業があるため、情報機関は懸念を強めている」と述べた。

 中国マネー頼み

 偉東は、中国で小中学校など3千校以上にネット教材などを提供。ホームページによると、パキスタンやスリランカなど十数カ国に拠点を構える。フランスでは相次ぐ学校取得に加え、ユネスコ(国連教育科学文化機関、本部パリ)と協力関係を結んだ。瀋氏はこうした仏進出の「功労者」。北京生まれで在仏31年。現在は仏国籍を持つ。

 ビジネス・スクールの学士課程では、中国語が必修。コートジボワールからの留学生、デュロ・モネカさん(21)は「中国語が話せると、就職に有利。将来は母国と中国を結ぶ仕事がしたい」と話した。瀋氏は「留学生を増やし、中国、フランス、アフリカを結ぶ高等教育の拠点に育てたい」と意気込む。

 ブレストは人口約14万に対し、学生数が約2万人。留学生の誘致は地元経済の重要な柱でもある。地元商工会議所のメリアデック・ルムイヨール事務局長は「ビジネス・スクールは仏政府の学校再編でかつて経営立て直しを目指したが、だめだった。偉東のネット教育で国際化するのはよいこと。軍の心配は軍がすればよい」と述べた。

 フランスでは中国からの留学生が急増し、今では仏語圏モロッコなどからの留学生に次いで3番目に多い。マクロン仏大統領は中国の一方的な「一帯一路」進出に警戒を示すが、中国マネーに経済再生をかける地方の動きは続く。

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