2020年度の国内経済は“踊り場”局面になるとの認識が企業の間で広がっている。フジサンケイビジネスアイが昨年末にかけて実施した主要118社アンケートでは、東京五輪後の関連需要の剥落や消費税増税による購買意欲の減退を背景に、景気が横ばいにとどまるとの回答が41%と最多を占めた。本格的な回復時期が21年度以降に後ずれするとの声も多く、米中貿易摩擦を始めとした不透明な海外経済との「内憂外患」が続きそうだ。
アンケートは昨年11月下旬から12月中旬にかけて実施し、回答には年明け以降の中東情勢緊迫化は織り込まれていない。
それでも20年度の景気動向は「横ばい」「やや後退する」「後退する」との答えが合計53%と過半数を占めた。深刻な人手不足を背景に、「省人化や機能高度化に向けた設備投資が続く」(建設)などの理由で「やや拡大する」との答えも40%あったが、「拡大する」と断言した企業はゼロだった。
こうした不安感の裏側にあるのは、五輪閉幕後に起きる公共工事や訪日外国人旅行客(インバウンド)関連の需要急減だ。「海外観光客の一時的な増大に対応するため需給のゆがみが生じ、開催前には景気が拡大するがその後は減速する」(保険)と指摘される。今年6月に終了するキャッシュレス決済のポイント還元策など「増税対策の効果剥落」(流通)が待ち構え、消費回復が勢いを欠くとの懸念もある。このため、景気回復に向け政府に優先してほしい施策については、「消費マインドを良くしてほしい」(外食)と個人消費の喚起策を求める声が最も多かった。
政府は公共工事を途切れさせないよう国土強靱(きょうじん)化を軸とした事業規模26兆円の経済対策を組んだが、大規模工事の着工には時間がかかり、「景気に現れるまで約1年必要」(機械)だ。このため、景気の本格的な回復時期は「21年度以降」が35%と最も多く、「19年度」が1%、「20年度」も17%にとどまった。「その他」を選んだ29%からも「当面、力強い回復を見込んでいない」(銀行)など弱気な意見が続いた。
一方、7年目に入ったアベノミクスの評価では第1の矢「大胆な金融政策」と第2の矢「機動的な財政政策」でデフレ脱却が進み、企業の収益基盤が強化されたとして、「大いに評価できる」「一定の評価ができる」が合計65%に達した。
ただ、第3の矢「成長戦略」に関しては道半ばとの見方が強く、「金融緩和と財政支出頼りの政策運営から脱却し、規制緩和などを大胆に強化してほしい」(証券)など要望が出た。
第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストは「良くも悪くも五輪の注目度が高すぎる」と指摘。競技場などの完成に伴い五輪関連の建設需要は18年には減少へ転じており、閉幕後の反動減は心配するほど大きくないが、期待が大きかった分だけ心理的負担になっているとみる。
また、いわゆる“老後2000万円問題”に象徴される将来不安は根強く、消費税増税も重なり、国民の節約志向は収まりそうもない。藤代氏は「キャッシュレス決済のポイント還元策を延長すべきだ。直接的な消費刺激と、キャッシュレス社会の実現という成長戦略の両面から有効だ」と指摘している。(田辺裕晶)
■アンケート 回答企業
IHI▽曙ブレーキ工業▽旭化成▽アサヒグループホールディングス▽味の素▽イオン▽出光興産▽伊藤忠商事▽ANAホールディングス▽SMBC日興証券▽NEC▽NTT▽NTTドコモ▽MS&ADインシュアランスグループホールディングス▽大阪ガス▽オリックス▽花王▽鹿島▽川崎重工業▽関西電力▽キッコーマン▽キヤノン▽九州電力▽京セラ▽キリンホールディングス▽クボタ▽KDDI▽神戸製鋼所▽コスモエネルギーホールディングス▽コマツ▽サッポロホールディングス▽サントリーホールディングス▽JR東海▽JR西日本▽JR東日本▽JXTGホールディングス▽JFEホールディングス▽JTB▽Jパワー(電源開発)▽J.フロントリテイリング▽資生堂▽清水建設▽シャープ▽商船三井▽スズキ▽住友化学▽住友商事▽住友生命保険▽セイコーエプソン▽西武ホールディングス▽積水ハウス▽セコム▽セブン&アイ・ホールディングス▽双日▽ソニー▽ソフトバンクグループ▽SOMPOホールディングス▽大成建設▽第一生命ホールディングス▽ダイキン工業▽大和証券グループ本社▽大和ハウス工業▽高島屋▽武田薬品工業▽中部電力▽T&Dホールディングス▽ディー・エヌ・エー(DeNA)▽DMG森精機▽帝人▽TDK▽東京海上ホールディングス▽東京ガス▽東芝▽東北電力▽東レ▽トヨタ自動車▽豊田通商▽日産自動車▽日本航空▽日本製鉄▽日本生命保険▽日本たばこ産業(JT)▽日本通運▽日本マクドナルドホールディングス▽日本郵船▽任天堂▽野村ホールディングス▽パソナグループ▽パナソニック▽ファーストリテイリング▽ファミリーマート▽富士通▽富士フイルムホールディングス▽ブリヂストン▽マツダ▽丸紅▽みずほフィナンシャルグループ▽三井住友トラスト・ホールディングス▽三井住友フィナンシャルグループ▽三井物産▽三井不動産▽三越伊勢丹ホールディングス▽三菱ケミカルホールディングス▽三菱地所▽三菱自動車▽三菱重工業▽三菱商事▽三菱電機▽三菱UFJフィナンシャル・グループ▽明治安田生命保険▽ヤクルト本社▽ヤマトホールディングス▽ヤマハ発動機▽吉野家ホールディングス▽リクルートホールディングス▽りそなホールディングス▽ローソン▽ロート製薬 (五十音順)