高論卓説

小学校でプログラミング教育必修化 そんなデジタル時代こそ人間性育成が必要

 正月に集まった子供たちの遊びは、コンピューターゲームに加えて動画の共有だ。年末年始の帰省客で混み合う電車や飛行機では、小さな子供たちがタブレット端末で動画サイトを見つめる。アニメとは限らない。一つの動画を見終わると次々に画面をめくる。小さな子供を持つ知り合いは「子守に使っている」という。(小塚裕史)

 個人を主顧客とするアパレルや小売りなどの企業は、SNSを通じて動画を発信する。インフルエンサーと呼ばれる、SNSの世界で影響力が大きい人物を活用する。気に入った商品をすぐに購入できるように電子商取引(EC)の仕掛けを用意してある。

 「面白い」と評判になった動画は多くの再生回数を稼ぐ。子供たちが将来就きたい職業の上位には、動画製作者がランクインする。だが、中には「面白ければよいだろう」と考え、バイトテロなど強い自己顕示欲を感じさせる動画が公開されてしまうことも起きる。

 こういった環境下、2020年度から小学校ではプログラミング教育が必修化される。大きな環境変化を迎える時代に鑑みた政策だ。必ずしもプログラミングの技術を習得することが主目的ではないとのことだが、子供たちがプログラム作りを楽しむのも良いことだ。試行錯誤する中で、コンピューターの仕組みを学習でき、自分たちがつくり上げたプログラムが動くことで達成感も得られる。

 一方で、小学校プログラミング教育の手引(文部科学省)にも書かれているが、「人間性」の育成にも同じように力を入れることも重要だ。子供たちがプログラミングに魅力を感じると、コンピューターに対峙(たいじ)する時間が増える。人間関係にはストレスがつきものだが、そこから逃れるために、機械に向き合う時間がさらに増えるかもしれない。

 デジタルの時代では、モノからコトへと価値観が移る。さらにトキ(時)も重要だといわれる。いかに時間を有意義に使うか、ということなのだが、他人に煩わされずに自分の時間を効率的に使うべきだと個人主義を推奨する解釈もできる。

 確かに、生き馬の目を抜くビジネスの世界では時間は極めて重要だ。重要な意思決定において、関係者の合意を得るのに相応の時間をかけて根回しを行う。このためにビジネスのタイミングを逸したとの話も聞かれる。

 だが、日常生活においては、時間を短縮することが必ずしも有益だとは限らない。回り道をすることで互いを理解できることもある。時間がかかったとしても「納得のプロセス」を踏み、互いの満足感が醸成されて結束が強まる。

 従来にも増して個人主義の時代になった。国家でさえ自国中心の政策を優先する。自分さえ良ければ、という風潮を強めたりしないだろうか。他人を思いやる心に欠けたり、良好な人間関係の構築に支障をきたしたりしないだろうか。

 もう一つの懸念は情報保護に関する倫理観だ。プログラミングに興じて他の情報システムに侵入し、データを不法取得することが起きないか。情報を盗んで富を得ようとする輩は論外だが、ハッキングを腕試しだと罪悪感なく考えていると大事に至る。

 小さい頃からデジタル環境に親しむ子供たちが、将来どのように成長を遂げていくのかを予測するのは難しい。だが、子供たちの健全な成長を促すためにも、今の時代に合った情緒教育、倫理教育に力を入れるべきだ。ここでの懸念がまったくの杞憂(きゆう)であることを願う。

【プロフィル】小塚裕史

 こづか・ひろし  ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。

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