25年前の阪神大震災を経験した神戸市出身の声優が、次世代に震災の記憶を継承する活動に一歩踏み出した。震災当時まだ1歳で「現実味のない災害」だったが、震災をテーマにした昨秋の音楽朗読劇に参加し、被災地の出身者として「伝える責任」を感じるようになった。「神戸を背負う一人として、被災者がどのように震災を乗り越えてきたかを伝えたい」と訴える。(尾崎豪一)
声優は、人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」などに出演する高槻かなこさん(26)。同作から生まれたアイドルグループ「Aqours(アクア)」のメンバーとして平成30年末のNHK「紅白歌合戦」に特別枠で出演するなど、若者を中心に高い人気を誇る。
ただ、震災当時はまだ1歳。神戸市内の社宅で被災したものの被害はなく、記憶もほとんどない。近くに住む祖母がタンスの下敷きになって負傷したことをのちに知ったが、震災は「あまり現実味がない」というのが正直な気持ちだった。
親の転勤で県内外を転々とし、小学6年で阪神高速道路の倒壊現場近くにある小学校へ転校。学校には「1・17」が近づくとメディアが取材に訪れ、震災復興を願う歌「しあわせ運べるように」を歌ったが、それでも震災について深く考えることはなかった。
転機は23年の東日本大震災。不登校がちな生活を救ってくれたアニメやアニメソングの影響で「アニソン歌手」を夢見て大阪でアルバイト中、街が津波にのみ込まれる映像を見た。「地震や津波はこんなに悲しい出来事なのか」と初めて強く意識した。
声優やアイドルグループとして活動後も、西日本豪雨で福岡のライブに一部ファンが来場できなかったり、大阪でのライブ翌日に大阪北部地震が起きたりと自然の脅威に直面した。「(被災者の)心の支えとまでは言わないが、何か楽しい存在でありたい」と考えるようになった。
一方で、郷里を襲った阪神大震災が頭をよぎることも増えた。幼いころから神戸の街並みに震災の傷痕すら感じなかったのは、「被災者が一丸となって震災に立ち向かい、いち早く復興を実現できたからでは」などと思いを巡らせた。
そうした中、阪神大震災から懸命に立ち上がる神戸の人々を描く音楽朗読劇「ヘブンズ・レコード~青空篇~」のオファーを受けた。すぐ「やりたいです」と答えた。「神戸を背負う一人として震災を伝える責任を感じた」からだった。
昨年9月、東京や神戸で開かれた朗読劇で演じたのは、震災で亡くなった母親の人格が乗り移った女性。演出家に薦められた本で実在のモデルがいたことを知り、衝撃を受けた。「ある意味、アニメのよう」な難しい役柄を必死に想像しながら演じきった。
被災した親族の一部からは「悲しいことを思い出すから、劇を見るのが怖い」との声もあった。震災の悲惨な記憶に触れたくない気持ちも理解できる。それでも、朗読劇に参加したことで「震災の記憶を芝居で現実味をもって伝えることも大切」という思いを強くした。
「震災で人々がどのように結びつき、乗り越えてきたのかを今後も自分の得意な芝居と歌で伝えたい。きっと魂で訴えかければ、震災を知らない人たちにも伝えることができる」