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ナイキ製厚底シューズ騒動の行方 専門家に委ねられる「不公平な助力」

 マラソン界を席巻する米ナイキ製の厚底シューズ。「世界陸上競技連盟(WA)が禁止を検討している」と英複数紙が報じて以来、注目は続いている。無理もない。2020東京オリンピックまで半年である。月内に科学、医学など専門家による調査結果がまとめられ、勧告書が出される見通しだ。全面禁止か、規則変更による靴底の厚さ制限か。勧告書である以上、禁止は必至とみるべきか。影響は最小限であってほしい。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 選手「早く決めて」

 「どっちでも良いから早く決めてくれーい」-。東京オリンピック3つ目のマラソン代表の座をかける大迫傑選手(ナイキ)のツイートは切実だ。札幌への会場変更に対処を迫られ、いままたシューズに揺れる。レース成績が収入に直結する彼らには死活問題。規則変更なら決定は3月のWA理事会となる。

 メーカーにはシューズやウエアなどの開発、改良は生命線。いいものを作り、使った選手が好結果を残せば同種の品が売れて業績が向上、市民レベルを含むスポーツの進歩にも貢献する。

 厚底シューズは革命である。「薄くて軽い」を良しとするマラソンシューズの常識を変えた。選手の訴えを採用し「着地の際のダメージ」から足を守り、前に進む推進力向上も考慮。反発力の高い炭素繊維のプレートを航空宇宙産業で使う特殊素材のフォームで挟み込んだ。

 2016年発表後、改良を重ねた「ヴェイパーフライ」シリーズは驚異の記録を生み続けている。18年に相次いだ世界記録や日本記録の更新は「ヴェイパーフライ4%」による。昨年9月の日本代表を決めるグランドチャンピオンシップでは出場30選手のうち16選手が最新鋭「ズームXヴェイパーフライNEXT%」を履いた。代表に決まった中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)両選手をはじめ上位10人中8人がこれを着用した選手だった。

 そして10月、ケニアの世界記録保持者エリウド・キプチョゲ選手が非公式ながら1時間59分40秒と初めて2時間の壁を破り、ブリジット・コスゲイ選手(ケニア)による16年ぶりの女子世界記録更新。記憶に新しい今年の箱根駅伝や都道府県対抗全国男子駅伝の記録ラッシュも“魔法の靴”が生み出した。

 「不公平な助力」

 そんな画期的なシューズがなぜ、禁止対象となるのか。世界陸連競技規則143条には、「不公平な助力や利益を生んではならない。どの靴も普遍的精神に合致し、合理的かつ無理なく入手できるものでなければならない」と記されている。

 「不公平な助力」は専門家の手に委ねられ、数値がどう判断されるかだろう。魔法の靴は履きこなすのが難しく、記録は自助努力では、とも考える。「合理的かつ無理なく入手」はどうか。実は厚底シューズを履けない選手から「不公平」という訴えがあったとされる。08年当時、競泳で記録ラッシュを生んだ英スピード製水着「レーザーレーサー」と同様、経済的な理由だという。最新鋭シューズは1足3万250円。市民ランナーには高額だとしてもエリートランナーにはそれほどとも思えない。もちろん走法会得までに相当数履きつぶさねばならないし、途上国の選手にはいかがかとは思うが…。

 実はナイキ以外のメーカーも厚底シューズの準備中だ。アシックス「メタレーサー」改良版とミズノの「WAVE SKY3シリーズ」である。近くお目見えの予定。技術競争は陸上界のみならずスポーツの発展に不可欠。芽をつんではならない。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田畑政治』『オリンピック略史』など多数。

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