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「価値の再定義」で重要なのは抽象化

 リノベーション(価値の再定義)の考え方を使うときに、最も重要なのは「抽象化」だ。捉えた事象、課題、アイデアなどに対して、抽象化と具体化を往復させて考えることで、事象や課題の本質に迫り、発想が広がり、ブレイクスルーが見つかる。抱えている課題がなくなったり、相反すると思っていたことが両方解決したりすることもある。(ビジネスリノベーション社長・西村佳隆)

 「組織の中で思考がタコつぼ化してしまっている」-。あるクライアント企業の経営企画室長の言葉だ。これを別の場で紹介したら、多くの企業幹部が「恥ずかしながら、ウチも同じだ」と同意された。テーマや課題を与えられることに慣れ過ぎていて、具体化方向には動けても、抽象化方向には思考できないという。

 私たちは具体化、細分化、分析、手段の模索などの方向で思考することに慣れている。これに対して抽象化、コンセプト化、統合、目的に立ち戻るなどの思考方向を意識することを勧めたい。どちらが正しいアプローチなのかということではなく、この両方を往復しながら思考を巡らせることが重要だ。抽象化の方向性は、「何が正解か」と悩むよりも、仮説立てして検証する工程を素早く実行する方が短期間で精度が上がる。

 抽象化の使い方は次の通りだ。アイデアが2つ3つ出てきた時点で、さらに4つ目を考えるのではなく一旦立ち止まり、「自分がこのようなアイデアを出したということは、どういうことか」を考えてみる。その一段抽象化された視点から次の具体的なアイデアを出すとリノベーションが生まれる。またアイデア出しの対話をしている場合も、話の抽象度の階層を意識してキャッチボールをすると、より有意義なアウトプットにつながるだろう。

 例えば、研究部門が企業向けに蓄熱できる新素材を開発し、企画部門が応用用途の仮説を検討しているとする。この場合、すぐに考えるのは「どんな温度帯の利用で、どれだけ熱がためられるのか」だろう。だが、ここで「熱伝達と時間の関数をコントロールする技術」と抽象化してみる。(熱伝達)時間をコントロールするという視点に立ってみると、全く別の発想に結び付く可能性が大きくなる。

 機能・性能的に成熟した消費者向けの製品やサービスの場合は、「それを使うことで、どのような自己表現ができてうれしいのか」という方向性で思考してみることが、基本的なアプローチだ。唯一の正解があるわけではない「抽象化」の勘所は、経験の積み上げでもある。

【プロフィル】西村佳隆

 にしむら・よしたか 横浜国大工卒。ヤマハ発動機、ワタミ、サミーネットワークスなどを経て、2015年ビジネスリノベーションを設立。事業活性化支援を行う。日本医療デザインセンター理事、経済産業省認定経営革新等支援機関、立命館大デザイン科学研究センター客員研究員。著書に『ビジネスリノベーションの教科書』がある。51歳。京都府出身。

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