視点

国家安全保障上も注目に値するIR事件 対中防諜戦の視点を持て (1/2ページ)

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件で、収賄罪で起訴された衆院議員(元自民党)の秋元司被告が12日、拘留されていた東京拘置所(東京都葛飾区)から保釈された。(産経新聞論説副委員長・榊原智)

 東京地検特捜部が手掛けた政界に関する事件で、起訴内容を否認している被告が起訴直後に釈放されるのは異例だ。

 東京地裁は保釈に当たって、秋元被告に対し、贈賄側が現金を提供したと供述した別の衆院議員らとの接触を制限する条件をつけたという。

 政治家や官僚の腐敗は、国民の精神や社会の秩序を壊し、国を朽ちさせる。だから贈収賄事件の摘発自体に重い意義があるのだが、今回の捜査は国家安全保障上も注目に値する。

 日本の政治家などへの中国情報機関からの諜報工作、つまり「スパイの一本釣り」を未然防止することになるからだ。東京地検特捜部は、意識しているかを語らないだろうが、対中防諜戦という重要な意味合いである。

 日本のIR事業への参入を目指す中国企業「500ドットコム」側から、総額約760万円相当の賄賂を受け取ったとして、IR担当の内閣府副大臣だった秋元被告は逮捕、起訴された。だが、起訴内容を全面否認しており、その黒白は法廷でつけられることになる。

 贈賄側の動機はIR事業参加という経済的理由だったとみられている。

 そうだとしても安全保障上、留意すべきことがある。中国企業が日本や欧米の企業とは大きく異なる存在だという点だ。

 中国は全体主義の国で、中国企業は共産党政権の支配下にある。共産党規約や法令に基づき、多くの中国企業に党支部がある。外資との合弁企業でも党支部の設立が進められている。

 中国企業絡みの日本の政治家の収賄が明るみに出なければ、次のような最悪のケースがありえる。

 弱みを握られた日本の政治家がいずれ、政権中枢や外交、防衛、治安の要職に就くかもしれない。

 与党幹部になって政府や、政策形成過程に対して影響力を行使したり、機密情報に接したりするようになるかもしれない。

 贈賄側としてすねに傷を持つ中国企業よりも、中国当局の方が立場ははるかに強い。弱みを握られた日本の政治家が中国当局に脅され、中国のために働くスパイ、工作員になるよう強いられる恐れはある。中国企業の人間を使って、ワナに掛けることもできる。

 あからさまには脅さずに、親中派として養っておく選択肢もあるだろう。

 秋元被告らが中国のスパイになったと筆者が思っているわけではない。

 ただ、今回の事件が明らかにならず、起訴内容が本当だったとすれば、将来中国の情報機関から国を売るよう脅されるはめになったかもしれないとは考えている。

 事件は、IR担当の内閣府副大臣当時のこととされるが、それより前に秋元被告は政務三役の一つである防衛政務官に就いたことがあった。

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