高論卓説

トラブル解決に“もう一人の自分” 「コンフリクト・マネジメント」とは

 互いの違い認め冷静な選択、判断を

 「コンフリクト」とは、苦情・クレーム、他人との対立、紛争など、怒りが表出されているもののほか、不安、不満、ストレスなど、胸の内にあるさまざまな感情を含む。また、怒りの奥には後悔や期待、罪悪感、自分のふがいなさなど、自分でも気づいていない感情がしばしば潜んでいる。

 医療において医療者、患者間での対立が起こった場合に、対話によってはさらに対立構造が深まってしまうことがある。医療者としては力を尽くした結果である、医療は完全なものではない、と説明して理解を得たい。しかし、聞き手が怒りの感情を表出している状態での説明は、言い訳と感じられてしまうことがある。そして、本来の思いに至らない表層のやり取りに終始し、納得できない結果になってしまうのである。

 この対策として、コンフリクト・マネジメントの一つの対話モデルである「医療メディエーション」が注目される。

 対立する両者の対話の場に、中立公正な第三者が関わり、対話を促進しつなぐのが医療メディエーションという対話調整モデルである。間に入る人を医療メディエーターというが、話を聞き、質問を投げかけることによって思いを深く拓いていく。さらに、その場に見えていない両者が持つ事実を引き出し、対話の場で共有するという流れが作られることにより、違う視点でのウィンウィンの解決に至ることが可能となる。

 対立する両者のコンフリクトの解決には、(1)相手の話を傾聴し、共感、承認する(2)本当の思いを知る(3)事実を詳細に捉える-ことが必要である。共感、承認とは、たとえ間違った内容であっても「そう思っている」というその人をそのままに認めるということである。また、感情とともに出ている言葉は表層的であり、本当の思いはもっと深いものがある。それを引き出すには共感と問いが必要である。事故調査でまず確認するのは客観的事実であるが、これは小さなトラブルでも同様である。

 医療メディエーターは、解決策を提案するのではなく、お互いに認め合える対話となるようサポートするのである。この際には、先入観を持たずに全体を俯瞰(ふかん)して見渡し、出来事やそれぞれの人の思いを客観的に捉えることが必要である。

 小さなトラブル、コンフリクトにおいては、常にこういった立場で関われる人がいるわけではない。そのような場合、自分自身で中立的なメディエーターのような「もう一人の自分」を持ったつもりで出来事をとらえ対応する。これをセルフメディエーションという。

 自分自身のコンフリクト、すなわち不安、不満、違和感、葛藤、ストレスなどに対しても同様である。客観的にみられるもう一人の自分を持ち、出来事を冷静にみられると、自分自身のストレスを和らげることができる。

 誰一人として同じ人間はいない。違いを認め、だれもが客観的に全体を俯瞰することができる、むやみな感情をふりまかず、自身のストレスを軽減し冷静に選択する、これもコンフリクト・マネジメントのスキルである。

 情報不足は不安を招く、自身の身体のことには誰もが敏感であり、より感情が強く表出される。情報が錯綜(さくそう)する近年の社会において、自分自身でも、予測されるリスクへの対応、冷静に選択と判断を重ねることができる自分軸を持つことが必要であろう。

【プロフィル】永井弥生

 ながい・やよい 医療コンフリクトマネージャー。医学博士/皮膚科専門医。山形大医卒。群馬大学病院勤務時の2014年、同病院の医療事故を指摘し、その後の対応に当たり医療改革を行う。群馬県出身。

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