社会的意義を明確に
ベンチャーの認定制度を有している大学もあるが、そのような認定ベンチャーには成長性だけでなく社会的にも意義のある事業が期待される。逆にこれらの事業の社会的意義が不明確であるとみなされれば、大学の責任も問われるだろう。望ましいコミュニティー・キャピタルを形成するため、SDGsポリシーやESGガイダンスのようなものを、コミュニティーの資金と知財の循環のルールとするなども有効かもしれない。またこれらのエコシステムは国内だけの関係性ではとどまらず、外国からの投資や提携、あるいは外国市場への進出など、さまざまなクロスボーダーの活動に発展していくことが求められる。このような中で、外国からの投資に関して輸出管理政策との関係で注意を要するようになっている。例えば世界市場に進出しようとしているスタートアップにとって、外国の規制において問題になるような投資は望ましくないと考えるべきである。
これらの管理は、それぞれの組織が主体的に行っていくべきものである一方、そのコミュニティーを構成するメンバーが判断の基礎となる正確な情報を有していることが必要となる。大学の技術移転や兼業認可、またはこれらベンチャー企業が大学と連携する際に、リスク管理面での項目を審査に加味するなどすることも有効であろう。
今後の日本のエコシステム型産業の一翼を担うことが期待される大学コミュニティー・キャピタルの現代的課題に対し、大学や関係機関によるしっかりとした取り組みが求められている。
【プロフィル】渡部俊也
わたなべ・としや 1992年東工大博士課程修了(工学博士)。民間企業を経て96年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、99年同教授、2012年12月から現職。工学系研究科技術経営戦略学専攻教授兼担。60歳。東京都出身。