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新型肺炎、不織布に恩恵なし マスク特需もおむつ販売低迷影響

 新型コロナウイルスの感染拡大でマスクが品薄状態となっているにもかかわらず、素材である不織布の生産が落ち込んでいる。マスク以上に使用量が多い紙おむつの販売低迷で帳消しになっているためだ。マスクの需要は通常の5~7倍に膨れ上がっているが、不織布メーカーは“特需”の恩恵を十分に受けられていないのが実情だ。

 「差し引きではむしろマイナス。まだ需要には応えられる」

 不織布大手、三井化学の幹部は浮かない顔でそう話す。同社は名古屋工場(名古屋市南区)や三重県四日市市のグループ会社などで不織布を生産しているが、マスク需要の急増にもかかわらず、生産能力は余っているという。

 こうした状況は、旭化成や東レ、帝人といった他の不織布メーカーも同じだ。経済産業省の統計によると、1月の不織布生産量(速報値)は約2万3366トンと、前月比で5.8%、前年同月比では14.0%も減少。1月末時点の在庫は3万3218トンと、昨年12月末に比べて逆に0.9%増えた。

 生産量減少の背景には、紙おむつ販売の失速がある。昨年1月に中国でEC(電子商取引)法が成立した結果、日本で買い占めた商品を高値で売りさばく「爆買い」が減少。転売業者が保有在庫を安値で処分したため商品がだぶつき、正規品の販売にまで悪影響を及ぼした。在庫処分は一巡したものの、その後も米中貿易摩擦を背景にした景気減速で需要はしぼんだままだ。

 日本の紙おむつは中国や東南アジアで高い人気を誇るが、そうした人気を支えてきたのが通気性や柔らかさ、肌触りなどが優れている日本メーカーの不織布だ。各社は紙おむつの販売拡大に合わせて生産を増強してきたが、今はその紙おむつがブレーキ役となっている。

 しかも日本と中国は少子化に直面しており、紙おむつの販売がどこまで回復するかは不透明。ある不織布大手の幹部は「(マスク向けの)特需より、一刻も早く紙おむつの販売が回復してくれた方がありがたい」と本音をもらす。(井田通人)

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