ガバナンス経営最前線(4-1)

改革を推進するトップの本気

 形式は整ったが、実質が伴っていない。そう言われはじめている日本企業のコーポレートガバナンス。もちろん素晴らしい成果を上げる企業も多いのだが、それら“優等生”は“特別”で、“初級者”の手本としてはハードルが高すぎる、という面もある。その点、今年の「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2019」の受賞企業は少し違う。今回の受賞企業からは、ガバナンスを改革するカギは経営トップの“本気度”であることがうかがえる。ガバナンス改革は、特別な風土を持った先進的な企業が神秘的に実現するものではない、ということがわかる好例だ。日本企業のガバナンス改革は、いよいよ実践が問われる局面に差し掛かっている。改革の行方や展望、課題を考える。(青山博美)

 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー 大賞企業に塩野義製薬

 企業経営者や社外取締役、機関投資家などで組織する日本取締役協会(会長・宮内義彦オリックスシニア・チェアマン)は、コーポレートガバナンスの仕組みを活用して中長期的に健全な成長を遂げている企業を応援しようと、企業表彰「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」を実施してきた。

 5回目となった今回はグランドプライズカンパニー(大賞企業)に塩野義製薬、ウィナーカンパニー(入賞企業)には日本精工と三井化学が選ばれている。

 毎回そうだが、選出されるのはまさに“手本”にふさわしいエクセレント企業ばかり。業績はもとより、企業としての存在意義や価値向上を進めていくための仕組みは秀逸だ。日本取締役協会では、こうした“手本”とすべき好例を広く紹介することで、これらに追随する企業を増やそうという考えだ。

 こうした努力もあり、日本企業のガバナンス改革はここ数年で大きく進展してきた。昨年の会社法改正では一定規模以上の会社に社外取締役を置くことが義務付けられるなど、制度面では法を含めた整備がなおも続けられている。

 これに対する企業側の対応も進んでいる。すでに東京証券取引所市場第一部に株式を上場する企業の9割以上が“形式だけ”は整えている。

 その傍らで、実質面の取り組みはまだこれからといった段階にある。制度が求める要件をクリアしただけ。いまの日本には、そういう会社が多い。制度面の整備に対し、実質面の改革のペースは遅れている。

 おのずと課題は“結果に向けた実践”をどうあたりまえのものにしていくのか、ということになる。

 カギ握るリーダーシップ

 コーポレートガバナンスの向上には、業績や企業価値の向上、不祥事の抑止、海外からの投資環境整備などさまざまな効果が期待されている。中でも企業価値の向上への期待は大きい。

 日本企業は欧米企業に比べると時価総額や、自己資本比率(ROE)、総資産利益率(ROA)が低いと指摘されてきた。この原因はいろいろあるが、総じて“稼ぐ力”が弱いのだ。コーポレートガバナンスの活用推進は、この“稼ぐ力”を強化するための方策として進められている。

 ただ、ガバナンス改革に向けた要件、例えば社外取締役を複数登用する、といった体制を整えても、それだけで企業価値が向上するはずはない。この先、この仕組みを使った改革が進まなければ意味がない。実際に改革を進めるには、経営トップの強い意志とリーダーシップが必要となる。

 「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」の受賞企業を見ても、この経営トップの“改革推進力”は特筆すべきものがある。改革の現状や結果も目を見張る内容となっている。制度強化が具体的に動き出す以前からこの仕組みに着目し、独自に制度を導入、運用してきたところも多い。制度面の整備が進む中で、その要件をクリアするために改革を始めた会社には、あまりにもかけ離れたレベルの高すぎる“手本”の数々だということもできる。

 そこで、今回の受賞企業である。

 今回は伝統的な製造業である日本精工、財閥系企業としては初受賞となった三井化学や、オーナー系企業である塩野義製薬など、もともとはこの手の改革とは遠いイメージの強いところばかりだ。

 古い体質、さまざまな制約、守られてきた聖域…。

 改革を阻む要素の多い中で改革を進め、結果に結び付けてきた。彼らができたということは、いわば“やる気になればどこでもできる”ということを示すものでもある。体制が整ったことを受け、これから実質を追求しようと考えている会社にとっては、今回の受賞企業は大いに参考になるはずだ。

 経営者にプレッシャーを

 ガバナンスを整備することは、経営に対する企業価値向上に向けたプレッシャーを強めることでもある。“甘やかし合い”ともいわれる株式の持ち合いや系列取り引きを続ける中で、社員が昇進する形で選ばれてきた取締役や経営トップにとっては、この改革は非常に厳しい選択だ。

 プレッシャーにさらされるだけではない。結果も問われる。企業の価値を高められない経営者を解任したり、適切な経営者を選任する仕組みが備わることは、“企業価値を高められない経営者”の排除を加速する。辛辣な言い方をすれば、日本企業の価値が低い背景には、“企業価値を高められない経営者”が多いという問題がある。こうした部分にメスを入れることができれば、企業は大きく動き出す。コーポレートガバナンスは、その原動力となりうるものなのだ。

 ≪コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2019受賞企業≫

 ◆Grand Prize Company(大賞企業)

  ・塩野義製薬

 ◆Winner Company(入賞企業)

  ・日本精工

  ・三井化学

 ◆特別賞・経済産業大臣賞

  ・資生堂

 ◆特別賞・東京都知事賞

  ・ダイキン工業

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