新型コロナウイルスの直撃を受けた航空各社が、巨額の資金調達に動きだした。旅客が落ち込み大幅減収が避けられない中、人件費や機材の固定費がかさみ、資金の流出が続いているためだ。ただ、政府保証を国に要請してまで融資枠の設定を求める業界の姿勢に銀行側は冷淡で、交渉は難航が予想される。
減収2兆円試算
「トンネルの出口までの距離が分からない」(日本航空の赤坂祐二社長)。業界を覆うのは、感染の終息が全く見通せない現状への危機感だ。
国内の航空会社は強まる移動制限で大規模な減便を余儀なくされ、年間減収額が総額で2兆円規模に上るとも試算される。やっかいなのは、人件費や航空機のリース代といった固定費負担は売り上げの増減に関係なくかかり続けることだ。3月の羽田空港国際線の発着枠拡大や東京五輪・パラリンピックに向け、人員や設備を増強していたことも裏目に出て、各社の収益は大きく圧迫されている。
手元資金が現在3000億円程度のANAホールディングス(HD)は、コロナの感染拡大で月1000億円程度の流出が見込まれているもようだ。日航は社債を発行して200億円を調達した。ANAHDも財務の健全性を保つための資金確保が喫緊の経営課題となっている。
業界全体で2兆円、当社で1兆円以上の融資枠を確保-。ANAHDの関係者が4月初旬にかけて東京・永田町や霞が関の政官関係者らに配った業界の要望書には「未調整」(銀行筋)の言い値の数字が並んだ。
航空産業の苦境は海外も同じだ。3月にはシンガポール航空が最大150億シンガポールドル(約1兆1500億円)の調達を目指すと発表。トランプ米政権がコロナ対策の新法で航空会社支援を打ち出すなど、暮らしや経済活動に不可欠な輸送インフラを維持するために国費を投じる動きも珍しくない。
日本でも、ANAHDや日航など業界各社でつくる「定期航空協会」が政府に支援を要望。国の信用力をバックに確実に融資を引き出そうと、政府保証付きの融資枠組みづくりを陳情した。
バランス取れず
国の財政を預かる財務省は、航空産業を「地域経済やインバウンド(訪日外国人客)を支える日本経済の屋台骨」(麻生太郎財務相)と位置付け、支援自体には前向きだが、あくまで日本政策投資銀行の危機対応融資で対処する構えだ。民間銀行の関係者は、政府保証という特別待遇要望に対し「中小企業支援とバランスが取れず、あり得ない話だ」と、冷ややかな視線を送っている。