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「勝ちにも不思議の勝ちはない」 汎用技術は採用必然性の積み重ね

 プロ野球の野村克也氏が2月に亡くなった。野村氏が好んだ名言に「勝ちに不思議の勝ちあれど、負けに不思議の負けはなし」という一節がある。ビジネスでも「負けは必然」という姿勢から多くを学ぶことができる。さらに、企業は永続的な成長を求められるわけだから、「勝ちにも不思議の勝ちはない」という意識が必要だろう。(エヴィクサー社長・瀧川淳)

 シーズ技術の営業現場では、「汎用(はんよう)性」という言葉をよく耳にする。「この技術はおもしろい。とても汎用性がある。うちで使っている技術と置き換えたら、もっといろんなことができる」といった具合だ。

 汎用性とは「多目的に、多用途に、広範囲に使える特性」と解釈されるため、ビジネスチャンスをうかがっている立場では、なんともポジティブな理想的な言葉に感じられる。事実、先の会議は盛り上がり、「秘密保持契約(NDA)を交わして具体的な検討に入りましょう」「次回は実務担当者や決定権者をそろえて打ち合わせを行いましょう」と商談が進んだ。

 このようなやり取りやプロセスを一概に否定することはできない。しかし、消費者や潜在顧客は自らのニーズと商品・サービスの価値が一致することを求めているのだから、開発当事者なら「汎用性というのは個別的・特殊的な事例から導き出した結果論ではないか」という着想をすべきだ。

 実際に、さまざまな試行錯誤を経てファーストユーザーと出合う。ここで言うファーストユーザーとは、何かのバーターでとか、年度予算の残りでとか、開発前から見込みユーザーとして約束していたとか、という事例は含まず、“ガチンコ”の提案事例とする。開発当事者からすれば、かなりの年月と工数をかけて勝ち得た成功体験かもしれない。シーズ技術の開発企業にとっては、相手方の要望に合致する提案とすべく全社一丸となって進めることだろう。

 ここで自社のシーズ技術が汎用性に近づくためには、「なぜ採用されたのか」「なぜ、その要件や要望が出てきたのか」「他の技術では通用しなかったのか」などを徹底的に分析し積み上げることが必要だ。筆者は、このガチンコユーザーから得た採用理由の分析結果を「採用必然性」と表現している。

 この採用必然性の中に、他の技術の代替や改善ではなく独自の価値が含まれていれば、差別化や競争優位性を築きつつ横展開でき、汎用性を帯びてくる。汎用性は採用必然性の積み重ねのうえに見いだされる。勝ちにも不思議の勝ちはない。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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