リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

ツムラ 漢方薬の価値、世界にアピール(2-1)

 ツムラ・加藤照和代表取締役社長CEO

 漢方薬の価値、世界にアピール

 国内の医療用漢方製剤市場で8割を超すシェアをもつツムラは、2021年度に向けた長期経営ビジョンとして「“KAMPO”で人々の健康に寄与する価値創造企業を目指して」を掲げ、国内漢方製剤市場の持続的拡大に加え、中国事業の基盤構築にも力を注ぐ。加藤照和代表取締役社長CEO(最高経営責任者)は「漢方薬は複数の原料生薬を組み合わせて作る多成分が強み。KAMPOの価値を世界に発信し、人々の健康に貢献したい」と意欲を見せる。

 「心身一如」基本に

 --漢方医学の起源は

 「5~6世紀頃に中国起源の伝統医学が伝わり、1400年以上という長い年月をかけて日本で独自に発展した。江戸時代に集大成し最盛期を迎えるが、明治時代に西洋医学が導入されて漢方医学は排斥され衰退した。しかし、1976年に当社の医療用漢方製剤33処方が薬価基準に収載され、これを機に西洋医学が中心の医療現場でも漢方薬が使われるようになり、数々の臨床データが集められ、作用メカニズムも徐々に解明されるようになった」

 --西洋医学との違いは

 「西洋医学は患者の症状に対して基本的に心と体を分けて考え、臓器・器官ごとに見て病気の原因を探す。見つかれば、その病気に適切な薬が処方される。一方、漢方医学は心と体を一つと考える『心身一如』の診療方法で、病気は心身のバランスが崩れたときに起こると考える。心身全体のバランスを整えることを目指し、検査で異常がない場合でも原因を探って治療する」

 --漢方医学は見直されているのか

 「私たちは西洋医学と融合させて、双方の利点を生かした医療現場の実現に貢献したい。中国では伝統医療を行う中医と西洋医という2つのライセンスがあり、兼務する医師は少ない。日本は西洋医学のライセンスで漢方医学も扱えるので、それぞれの特質を生かし、治療の幅を広げることができる医療体系になっている。西洋医学、漢方医学のそれぞれに役割があり、それらの強みを生かすのが重要だ。例えばがん領域では、抗がん剤治療によるしびれや食欲不振、倦怠(けんたい)感といった副作用を訴えるケースがある。漢方薬との併用でこれらの症状を軽減でき、抗がん剤治療の継続に役立っている」

 20代から高齢者まで

 --国内の医療用漢方製剤市場の現状は

 「2018年度の医療用漢方製剤市場は薬価ベースで約1500億円。少しずつ伸びているが、医療用医薬品市場が約10兆円なので1.5%にすぎない。ただ当社の数量ベースは、この20年間で約3倍に膨らんだ。背景には漢方薬のエビデンス(根拠)が徐々に明らかになってきたことがある。漢方薬は高齢者や女性の服用が多いので今後も需要は伸びる傾向にあると予測している。特に女性は検査で異常がなく、原因がはっきりしない症状を抱えることが多く、20代後半から高齢者まで漢方薬がよく使われる」

 --漢方薬の可能性は

 「漢方薬は天然由来の多成分複合製剤のため効果が出るメカニズムの科学的解明が難しい。言い換えるとエビデンスを示すことで“知られざる”効果が見えてくる。多成分であるため1剤で複数の効果が期待され、薬を服用する負担(多剤服用)が軽減できるというメリットもある」

 畑から一貫品質管理で安定供給

 「19~21年度の第3期中期経営計画では国内医療用漢方製剤市場の持続的拡大に注力する方針で、高齢者関連、がん関連(支持療法)、女性関連を重点3領域に挙げている。当社は129品目の漢方製剤を製造・販売しているが、伝統的古典処方に基づく多成分複合の漢方薬に新薬開発という考え方はなじまない。このため、分析技術など医療の進歩を通じて、今ある漢方薬のさらなる有効性・安全性を確認し、新たな使い方を解明していく」

 --新たな使い方とは

 「神経症・不眠症の適応を持つ『抑肝散』は古くから子供の夜泣きや疳(かん)の虫に使われていた漢方薬だが、認知症患者のイライラなどの神経症状に効果を発揮することが分かり、現在では多くの医療機関・診療科で処方されるようになった。漢方医学は、西洋医学が発展する以前から自然界にあるものを扱ってきた。西洋医学の手法では証明できないところもあり、漢方は『非科学的』ではなく『未科学的』だと私たちは考えている」

 独自の厳しい基準

 --ツムラが国内市場で高いシェアを維持してきた強みはどこにあるのか

 「畑からの一貫した品質管理にある。ワインはブドウ生産者やその土地、気候状況などで出来が違い、ワインの価値も違ってくる。しかし医薬品の原料である生薬はそれが許されず、製剤となる漢方薬にも均質性と臨床上の再現性が求められる。つまり成分にバラツキがある生薬を原料としながら、どんなに大量生産しても常に同じ安全性、有効性、品質を担保できないと提供できない。いつも同じ効果であることが一番重要なのだ」

 「そのため、契約した畑で栽培・加工された合格品のみを原料として使用している。生薬の約80%を中国から調達しているが、30~40年かけて厳しい自社基準に合った生薬を安定的に栽培・加工する仕組みを構築し、均質性と再現性を培ってきた。『漢方の品質は畑から』がわれわれの信念だ。WHO(世界保健機関)のガイドラインをベースに独自の厳しい基準を設定し、栽培・加工方法や使用農薬などを規定した『生薬生産標準書』を定めており、原料生薬の品質を担保している」

 全医療現場に浸透を

 --国内栽培は

 「日本の土壌、気候にあわない生薬もあるが、漢方薬の需要増に応じて日本で栽培できる生薬の拡大に取り組んでいる。北海道では現在、川●(センキュウ)、蘇葉(ソヨウ)、当帰(トウキ)、附子(ブシ)などを年間約600トン生産しているが、将来的には2000トンに増やす計画だ。また生産者の経営安定に向け、栽培技術の向上や人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの活用も進める。一方で中国とは生薬の安定調達のため、栽培技術の共同研究など互いのメリットを供与しあっている。ただ干魃(かんばつ)・洪水などリスクを回避する必要もあり、中国と日本でも産地の複線化を進めている」

 --「“漢方”のツムラ」として取り組む課題は

 「国内のどの医療機関・診療科でも患者が必要に応じて漢方を取り入れた治療を受けられる医療現場の実現に貢献することを長期経営ビジョンとして掲げている。漢方薬を処方したことのある医師は約9割を占めるが、10品目以上の漢方薬を処方する医師は約1割とみている。この割合を5割に引き上げたい。まだまだギャップはあるが、シェア83%のツムラの責任で成し遂げる」

【プロフィル】加藤照和

 かとう・てるかず 中央大卒。1986年津村順天堂(現ツムラ)入社。2001年TSUMURA USA社長、11年取締役執行役員、12年代表取締役社長、19年6月から現職。14年7月から日本漢方生薬製剤協会会長。56歳。愛知県出身。

●=草かんむりに弓

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