フジテレビ商品研究所 これは優れモノ

「なだ万」監修の介護食

 □アサヒグループ食品 「なだ万」監修の介護食

 ■料亭の味に栄養価と食べやすさ実現

 超高齢社会が進む日本にとって、一人一人が健康な体を維持し、健康寿命を延ばすことは国家的な課題となっている。今回の「これは優れモノ」は食べる楽しさを提案した介護食を取材した。

 「介護食ではシニアの方に食べていただけるよう、栄養価や味付け、見た目などさまざまなこだわりがあります。」と話すのは、アサヒグループ食品ベビー&ヘルスケア事業本部の岸奈津美さん。

 大学では農学部で果実の成熟を研究し、2005年に和光堂(現アサヒグループ食品)に入社。ベビー用のオーガニック飲料の研究開発に携わった後、シニア向けの食品開発などを担当している。

 介護食の利用者は赤ちゃんと違い、豊富な味覚経験があるので、味や舌触りなどにもこだわりが必要という。

 ◆離乳食製造ノウハウ活用

 和光堂の前身、和光堂薬局は1906年に、国産初のベビーパウダーであるシッカロールを開発した東京帝国大学(現東京大学)教授の弘田長(つかさ)によって創業された。同氏はまた、日本で最初に小児科を造った人物で、乳幼児向け栄養食品の販売などを通じて、当時高かった日本の乳幼児死亡率を低下させることに尽力した。

 その後も17年に日本初の育児用粉ミルクを発売すると翌年には株式会社和光堂に組織変更した。37年には離乳食である日本初のベビーフードを発売した。このベビーフードは、天皇家でも使われたという。以後今日まで、同社ブランドのベビーフードは、国内でトップシェアを占めている。

 2001年には、これまでのベビーフード製造のノウハウを生かし、介護食市場に参入した。

 ◆家事労働の負担軽減へ

 内閣府の令和元年版高齢社会白書によると、日本の総人口1億2644万人のうち、65歳以上人口は3558万人で、総人口の28.1%と3割近くを占めている。さらに、後期高齢者といわれる75歳以上人口も1798万人で、総人口に占める割合は14.2%にも達している。

 さらに、19年現在、部分的な介助が必要な人も含めた要介護認定者は650万人にも上っている。これからも増え続ける要介護者のために、限られた人数の現役世代が、食事の世話などの介助をしなければならなくなっている。

 「3世代家族の方は毎日、シニア向けと子供向けの献立を考えなければいけません」と岸さんは、市販の介護食や栄養補給食品を上手に使ってもらい、家事労働の負担が軽減できればと語る。

 ひと口に要介護と言っても、かむ力や飲みこむ力などは千差万別だ。そこでアサヒグループ食品など大手食品メーカー78社が「ユニバーサルデザインフード」という介護食の統一規格を制定した。

 「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」の4段階で食べやすさの表示をすることで、消費者の利用促進を図った。

 一方で介護食を購入することに抵抗感を覚える消費者も少なくないという。そこで今年3月から発売したのが、日本を代表する老舗料亭「なだ万」と共同開発したバランス献立シリーズの新商品だ。

 「本格的な料亭の味に加えて、栄養バランスと食べやすさを加味した自信作です」と岸さんはにこやかに語った。

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 ≪interview 担当者に聞く≫

 □アサヒグループ食品 ベビー&ヘルスケア事業本部・岸奈津美氏

 ■心理的抵抗感払拭し楽しい食卓を提案

 --ベビーフードのノウハウが生きた

 原材料の野菜を小さく切り分けたり、柔らかくしたりなどの食べやすさにこだわった製品作りには自信があった。ベビーフードの場合は、おいしさもさることながら、子供の発育を促す栄養バランスを考慮している。赤ちゃんはまだ味覚が発達しておらず、大人と同じ味付けだと塩分などを取り過ぎてしまう。ところが、介護食では、しっかりとした味付けや歯応えといった食感を知っているシニアが対象となるので、工夫が必要だ。

 --介護食でこだわっている点

 素材のうま味やだしにこだわり、食べた人に満足感のあるしっかりとした味付けにしている。薄味だとおいしくないと感じてしまうので、素材のうま味やだしなどを加えてしっかりとした味付けにしている。その代わり、若干甘味を加えている。家庭でシニア向けに根菜類や肉類の料理を作るのは難しい。そこで、牛肉のしぐれ煮風や鶏とゴボウの五目煮などをこれまで商品化している。

 --高級料亭とのコラボの理由は

 介護を受ける人のためだけではなく、介護する側の人のためのことも考えながら共同開発した。介護者をかかえる年代の方は介護食を使うことに心理的抵抗感を感じてしまう傾向があることが分かった。「なだ万」監修の味とパッケージにすることで、そうした抵抗感のハードルを下げることが目的だ。家庭の献立にこの一品を加えることで、楽しい食卓になることを期待している。

 --開発で苦労した点などは

 開発には1年ほどかかった。なだ万の総料理長に協力を仰ぎ、その名に恥じない本格的な味が要求された。うま味を利かせすぎると雑味やえぐみに感じる場合があり、それぞれの風味を生かす微妙なバランスをとるのに苦労した。スーパー、ドラッグストアを中心に販売しているほか、シニア施設のケアマネージャーなどに試供品を提供し、認知度向上を図っている。現在、なだ万監修商品は4品だが、今後品目を増やしていきたい。

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 ■フジテレビ商品研究所

 「企業」「マスコミ」「消費者」をつなぐ専門家集団として1985年に誕生した「エフシージー総合研究所」内に設けられた研究機関。「生活科学」「美容・健康・料理」「IPM(総合的有害生物管理)」の各研究室で暮らしに密着したテーマについて研究している。

 http://www.fcg-r.co.jp/lab/

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