ホームレスの人が雑誌の販売を任され、売り上げの一部を収入とすることで自立を目指す「ビッグイシュー」の販売員が、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で苦境に立たされている。NTTドコモの統計情報によると、大阪・梅田周辺では4月27日午後3時時点の人口が感染拡大前(1月18日~2月14日の平日平均)に比べて73・1%減少するなど、主要駅の人通りは大きく減った。人がいなくなったことで路上での販売を基本とするビッグイシューの売り上げは大幅に減少している。
「おかげさまで最近、あたたかい。冬でなくてよかった」
大阪府高槻市のJR高槻駅前で販売を続ける山田裕三さん(61)は、そういってほほ笑んだ。3月から販売数が減り始め、4月はほぼ半減。これまでは低価格で利用できるネットカフェで体を休めてきたが、店は休業要請を受け閉店してしまった。
現在の収入では、府がネットカフェの代替とする宿泊施設を利用するのは難しい。「路上で寝る日が増えた」という。
大阪市出身。高校を卒業後、和食の料理人として働き続けてきた。5年ほど前、90代の母親を介護するために離職し、最終的には生活保護を受けながら介護を続けた。母親が97歳で亡くなると、住んでいた家を出ることに。仕事も見つからず、ネットカフェを転々とした。
やがてネットカフェに泊まる金もなくなったが、「そのへんに寝転んで寝るということができなかった」。夜は公園で休憩したり歩いたりし、昼間は図書館で寝た。その図書館で見つけたのが、ビッグイシュー販売員の仕事を紹介する冊子。すぐに販売員になった。
販売歴は5年ほど。高槻駅前での販売は昨年8月からだが、毎号買ってくれる常連客もいる。買ってくれた人にプレゼントする自作の小冊子「路だより」には板前の経歴を生かし、毎号料理レシピを掲載している。「ビッグイシューの販売が好きだから続けている。冷たい目でみられることもあるけれど、応援してくれる人がいるという喜びが大きい」
だが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、高槻駅前の人通りは激減した。いつもいっぱいだった駅前の自転車駐輪場は閑散とし、毎号買ってくれる常連客も通らなくなった。
それでも、「今は無理して買いに来なくてもいい。自分を一番大事にしてほしいから」と語る。母親ら親族を亡くした経験で、命の大切さが身に染みた。自身も糖尿病や高血圧の持病があり、感染は恐怖だ。閉じ籠もっていたいが、それでは食べていくことができない。「販売をやめるわけにはいかないんです」