先端技術を駆使して街全体をインターネットでつなぐ「スマートシティー構想」。3月下旬に発表された、トヨタ自動車・NTT連合のスマートシティー構想は、両社の先端技術を軸にオールジャパン体制を目指すものだ。海外では、中国アリババや米グーグルの持株会社、アルファベットなどのIT企業が存在感を示しており、日本勢が追走する体制がようやく整った。
トヨタとNTT提携
「多くの仲間を巻き込みながら、人々の豊かな暮らしを支えるプラットフォームを作ることができれば、世界における日本のプレゼンスを高めることにもつながっていく」。トヨタの豊田章男社長は3月24日、NTTとのスマートシティー事業の連携について、こう語った。
トヨタとNTTが相互に2000億円を出資して株式を持ち合う。人工知能(AI)や、あらゆる機器を通信でつなぐ「モノのインターネット(IoT)を活用し、渋滞緩和やエネルギー消費の効率化などにつなげる。トヨタは開発中の自動運転車「イーパレット」やロボットを暮らしにどう取り込むか実験。NTTはスマートシティー事業を成長分野と位置付けており、自動運転に必要な通信インフラや、カメラ映像の分析技術を提供する。
2020年末に閉鎖するトヨタ自動車東日本の東富士工場(裾野市)の跡地と、港区の品川駅前でスマートシティーを先行して展開する。工場跡地の面積は約71万平方メートルで、東京ドーム15個分に相当する広さ。跡地の開発は来年初めごろから着工し、まずはトヨタの従業員ら約2000人が住む。
両社によると、エネルギー、住宅、行政などのさまざまな分野と連携したプラットフォーム構築を狙う。
日本のスマートシティーは、11年の東日本大震災で甚大な被害を受けた東北地方で始まった。太陽光発電などの再生可能エネルギーの効率利用や、蓄電技術、エネルギー制御技術を使った需給調整が中心の「復興型」だ。国の補助金を受け、省エネや効率化技術に重点が置かれていた。
その後、家電メーカーによる太陽光発電や省エネ装備を一式そろえた商品や、大手ゼネコンやハウスメーカーによる低炭素社会実現をうたったBEMS(ビル内エネルギー管理システム)やHEMS(家庭内エネルギー管理システム)などが登場。最近では、ITを活用した次世代移動サービス「MaaS(マース)」の実証実験が、各地で行われている。
国内でスマートシティーの普及を阻んでいたのは、こうした最先端技術を統合するプラットフォームづくりの音頭を取る企業の存在がなかったことだ。スマートシティーを専門とする、野村総合研究所の又木毅正氏は「日本では、ある程度レベルの高い技術がそろっている」としたうえで、「顔認証などデジタル的な技術を普及させるには、(ゼロから)新しくつくる都市の方がしやすい」と指摘する。