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技術者と「同じ釜の飯を食う」楽しさ

 エヴィクサー社長・瀧川淳

 文系学部卒の筆者が、技術ベンチャーを20代半ばで創業したことに触れ「どうして音の事業をやろうと思ったのか」と質問される機会は少なくない。ビジネスモデルの着想・起点を問う目的や、経営リスクを指摘する狙いなどがあるのだろう。しかし、聞かれる側からするとシンプルに、国籍・性別を問わず「技術者と同じ釜の飯を食う」ことが楽しいから、というのも率直な思いだ。思いの中心には、技術者への敬意とライバル心があり、それこそが筆者に経営者としての成長を義務付ける原動力となっている。

 エヴィクサーは2014年頃から、数多くの共創イベント「ハッカソン/アイデアソン」へ技術提供を行っている。ハッカソンとはプログラミングに没頭する「ハック」という言葉と「マラソン」を組み合わせた造語で、社会課題の解決などをテーマとして、数日から数週間の短期間で新製品・新サービスを作り出し、その出来栄えを競う。参加者はエンジニア、デザイナー、プランナーらを対象に広く一般から募集され、意気投合すれば初対面同士その場でチームを作ってチャレンジすることもドラマを生み、賞金やスポンサー企業との協業チャンスなど特典が用意される表彰式は大いに盛り上がる。

 技術を提供する側も、自社の技術に関して「どんな形態で提供すれば扱いやすいか」「どんな議論を通じて、どんな組み込み方で実装するのか」「どの部分までオープンにすべきか」という、実ビジネスとは違った開発者目線のフィードバックを得られることがメリットだろう。

 筆者も会場の雰囲気が好きでよく顔を出していた。目の前にある材料と限りある時間は公平で「いかに新価値を生み出すか」という目標を個々が咀嚼(そしゃく)し、「動くものを作るだけでなく伝えることも含めて、チームにどう貢献すべきか」を考えていないメンバーは評価されない暗黙のルールに共感を覚えたからだ。

 筆者自身、「客先のデモはちょい見せではなく本番。第一印象で値段が変わる」ということを痛感し、創業当時は技術に金をつけるのは自分の役割だと、独善的に活動していた節があったと反省するに至った。企業の営業活動も短期間のプロジェクトの積み重ねであり、「着想~試作~開発~商談~納品~運用」は同じ釜の飯を食うメンバーが全員一緒になって紡ぎ出す一連と反復の創作活動だろう。ライバル心むき出しに技術者と切磋琢磨(せっさたくま)しながらチームへの貢献に挑む楽しさこそが原点だと何年経っても思えることは起業家冥利に尽きる。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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