コンピューターゲームの腕前を競う「eスポーツ」の選手の肉体強化をサポートする-。スポーツ選手のトレーニング指導を手掛ける森永製菓がそんな新たな試みを始めた。新型コロナウイルス禍で身体接触を伴わないオンラインゲームは競技の枠を超えて関心度もアップ。普段、運動とは縁遠いと思われがちな“ゲーマー”が重いバーベルを持ち上げ、レベルアップに汗を流している。
練習の量、質向上
プロテインなど栄養補助食品の開発、販売もする同社が東京都心に構えるジムはトップアスリート専用だ。柔道男子の原沢久喜(百五銀行)や空手女子の清水希容(ミキハウス)らが来年夏の東京五輪に向けて鍛えているが、近年は高額賞金を稼ぐプロが活躍するeスポーツの選手の姿もあり、瞬発系など運動能力の強化や栄養摂取が重要視され始めている。
世界で市場規模が拡大し、将来的な五輪競技入りも模索するeスポーツに同社が着目したのは昨年秋のこと。複数の選手に聞き取りすると、オンラインゲームでほぼ一日中パソコンに向かう生活で首や肩、腰に不調を抱える悩みが浮き彫りになった。健康マーケティング部長の佐藤実さんは「動かないなりにコンディショニングは必要。需要はある」と直感した。
現在は3人のプロをサポート。カードゲーム専門の25歳、あぐのむ=本名、伊藤裕太郎、横浜F・マリノス=は週2回ジムに通う。「フィジカルを鍛えることがゲームにも生きる」と考えて体幹を鍛えると猫背が矯正され、頸椎の変形(ストレートネック)に起因する頭痛が改善。栄養士の指導で食生活も見直したことで「体調不良がなくなり、ゲーム練習の量、質が上がった」と実感した。
指導する側は、eスポーツに関する海外の論文を読みあさる手探りの日々だという。あぐのむは最近、ベンチプレスやスクワットで本格的な筋力アップに取り組むが、まだ体づくりの範囲。トレーナーの吉高藍さんは「試合結果に直接的に貢献するのが理想。判断力や集中力を高められるよう、突き詰める」と話す。
3000億円の経済効果
eスポーツの日本市場は2019年に60億円を突破し、経済産業省は25年に3000億円程度の経済効果創出を目指す。新型コロナでスポーツ大会の自粛が相次いだ間に、eスポーツを活用した慈善企画に米プロバスケットボールNBAやテニスのプロ選手も参戦した。佐藤さんは「世界中で競技する人が増えるだろう。知見を蓄積していきたい」と先を見据えた。
【用語解説】eスポーツ
エレクトロニック・スポーツの略。パソコンや家庭用ゲーム機を使って対戦する競技で、サッカーや格闘技、カードゲームなど種目は幅広い。世界の市場規模は2019年で約1000億円とされる。特に欧米や中国で大きく、賞金で生計を立てるプロも生まれている。18年のジャカルタ・アジア大会では公開競技として実施され、国際オリンピック委員会(IOC)も五輪実施競技入りの可能性を模索。「スポーツ」として扱うことへの異論や、依存症対策などの課題もある。