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経営者自身も“ウェルビーイング”

 エヴィクサー社長・瀧川淳

 「家族にも薦められるものを売ってるんでね」-。

 出版社からインタビューを受けた際、自社の営業部長が誇らしげに答えているのを目のあたりにし、筆者がとても「幸せを感じた」言葉だ。近年多様化する価値観に対し、社外への競争戦略だけでなく社内すなわち従業員満足度にも重みを置くべきということで、「ウェルビーイング経営」という概念が注目されている。

 ウェルビーイングが意味するのは、「病気ではないという消極的な健康」よりも、身体的なことからモチベーション、社会的な意義に至るまで一貫して「ひとりの人間としてのやりがい」が腹落ちしている状態であり、そのベクトルを個人と企業がすり合わせる経営の重要性を示唆するのだろう。

 シーズ技術の事業化に10年以上チャレンジしていて常々思うのは、数値目標が定まらない社会課題へのチャレンジと社内メンバーのモチベーションをつなぎ合わせるための“かすがい”には、独善的な意味や承認欲求ではなしに「経営者自身も自分のウェルビーイングを自覚する」ことが必要不可欠ということだ。

 エヴィクサーは2019年までに数億円の資金調達を行ってきた技術ベンチャーだ。事業計画の進捗(しんちょく)度合いを計るKPI(重要業績評価指標)の設定に七転八倒しながら、フェーズごとに個人エンジェル、ベンチャーキャピタル、事業会社などからの出資と金融機関からの借入金を織り交ぜ、成長資金を捻出してきた。当初、がむしゃらにニーズの掘り起こしや顧客価値の創出に尽力することで経営者としての責任を果たそうとしたが、定量的な評価に乏しい場合、ほとんどの投資家とすれ違う挫折の連続だった。どうにかして社内メンバーを鼓舞したいと悩んでいたころ、冒頭の言葉を聞いて肩の力が抜け、「経営者である自分自身が幸せに感じること」をシンプルに“仲間”と共有して、試行錯誤の中でもチームが団結できたように感じている。

 研究活動や知的好奇心の延長線上で創業するスタイルが国策として推進されている。数多くの成功事例とともにその実行理論が整理され、「起業のプロフェッショナル化」が進むだろう。その際「自社はこうあるべきだ」という目線が先行するかもしれないが、主従・労使関係を超えて、「経営者も仲間とお互いにウェルビーイングを分かち合う」ことで、「自社は“自分たちのためにも”こうあるべきだ」と主人公に仲間を含めることができれば、難局を切り開ける確率が飛躍的に上がるだろう。

【プロフィル】瀧川淳

 たきがわ・あつし 一橋大商卒。2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立し現職。08年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、他社に先駆けて自動コンテンツ認識(ACR)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。40歳。奈良県出身。

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